第11話 力試し

「おや、大将」


「あいよぉ! って大将じゃない!」


 待ち合わせの駅に行くと、またも大将に出会った。


「エンカウント率高くない?」


「ちょっと! 人をゲームの敵キャラみたいに言わないでよ!」


 いや、でも凄くない? アイドルとこんな頻繁に会うことって早々ないよ? いやー、また久留米に尊敬されるな。めんど。


「そんで、大将はここに何しに来たの?」


「うん、もう大将でいいや……。えっと、今日はお散歩してただけだよ。今日は完全オフだから、暇なんだよね。えっと……」


「佐藤でいいよ」


「うん。じゃあ、佐藤くんは何しにここへ?」


「バスケ。今友達と待ち合わせしてるんだよ」


 大将は少し驚いた顔をした。


「佐藤くんってスポーツやるんだね」

 

「まあな。とはいえ、バスケはほぼ初心者だけど」

 

 まだ初めて1週間経たないくらいだ。まあ、日にちの割には上達している方だとは思う。


「よ、早いな」


「ん? ああ、まあな」


 話している間に、いつの間にか遊佐川が待ち合わせ場所についていたみたいだ。


「その人は?」


「この人は俺の友達名前は……えっと」


「大師真理亜です」


「遊佐川晴夏だよ。よろしく。早速話していたところ悪いんだけど、一郎は連れて行っても大丈夫かな?」


「はい。大丈夫……あ、そうだ」


 なにか思い出したかのように、真理亜はスマホを取り出して、俺に差し出してきた。

 そこにはQRコードが書かれている。


「友達登録しよ。今度、時間があったら話そうよ」


「まあ、良いけど」


 俺は、自分のスマホでQRコードを読み取った。すると、何やら大きなシーバスを抱えた真理亜の写真が映し出された。

 シーバスの鱗がキラキラと輝いていて、それに負けないくらい真理亜の笑顔も輝いている。


「た、大将……」


 ヤバい、これはまじ尊敬っすよ大将。


「? ……ふぇ!? ちょっ、違っ……これは……!」


 真理亜は俺が何を見ているのか気付くと、顔を真っ赤にして俺のスマホのスクリーンを隠そうとしてきた。


「いや、釣り好きなんだろ? 別にそれくらい気にする程じゃないと思うけど」


 俺は釣りをしたことは無いけど、大物を釣るのには憧れがある。

 真理亜なんて、これをバッサバッサ釣るわけだろ? 久留米じゃないけど、マジリスペクトっしょ。


「……そう、なのかな」

 

「俺さ、余り趣味と言える趣味が無いし、そういうのあるのは羨ましいよ」


「そっか……」


 真理亜は頬を少し緩ませて、嬉しそうにしていた。


「でも、それならほら、佐藤くんだって私の事ふ、ふぁんなんでしょ? ……な、なんか面と向かって言うのは恥ずかしいね……」


 連絡先も交換したとなると、もう関係性としては友達って言うわけで。

 しかも異性の友達だ。そんな人にファンですなんて言うのはなんか変な感じがする。

 うん、なんかそう言われると突然恥ずかしくなってきたな。


「まあ、なんだ。仁奈とも仲良いならその内また会うかもな。機会があったらまた話そうよ」


「そうだね! 佐藤くん、バスケガンバ!」


 アイドルと友達、かぁ……。まあ、身内もアイドルやってるわけだけど、不思議な響きだな。

 最近積極的に動いているからか、中学の頃とは何か全く違うことが転がり込んでくる。

 面白半分だが、不安もある。でも、悪いことではないかな。

 俺は真理亜に小さく手を振って、バスケットコートへ向かった。


 ◆ ◆ ◆


「よぉ〜! 一郎良く来たぜー!」


 暑苦しい声が聞こえたかと思えば、予想通り久留米の声だ。

 今日はサッカー部とバスケ部どちらもオフなのか。珍しい。


「遊佐川とは良くやってるみたいだな! 俺、色々話聞くけどかなり頑張ってるらしいし、やっぱ俺の目に狂いはなかったな〜」


 果たして本当にそう思ってるのかは知らない。まあ、恐らく軽口を叩いてるだけだ。


「ああ。本当に助かったよ」


「んな感謝なんていいんだよ。俺はただ紹介しただけだからよ。んな事より、今日の活躍は楽しみにしてるぜ!」


「あはは。まあ、それなりにな」


 そこまで期待されても困るってもんだ。まだバスケは練習始めたばかりで、やっと初心者を抜け出し始めた段階だからな。

 ……それに、アイツらとの温度差も気になるし。

 堀田英里香と入間優子。遊佐川と同じくカーストトップグループでモテる。入間の方は堀田の連れというイメージが強いが仲は良い。

 その2人は余り話したことがない分、俺のことが部外者のように感じるのかあまり話しかけてこない。


「あの、堀田さんと入間さんだよね。佐藤一郎って言うんだ。これからよろしく」


「ああ、佐藤ね〜知ってる知ってる~。よろしくね〜」


「私もよろしく〜」


 うん、なんとも素っ気ない返事だ。まあ、今はしょうがないだろう。

 だからこそ、球技大会前に少しでも信頼を築く必要がある。今のうちに少しでも信頼されていれば、球技大会での効果は更に確実なものになる。これほどうまいものは無い。


「遊佐川。改めてなんだけど、今日はどうやってバスケをするんだ?」


「今日は5対5で試合をする。ちなみに、相手はそこら辺にいる人と適当に話して決める。安心していいよ。ここにいる人達の実力は粗方分かってるから、そこまで無理な力の差があるところとはやらないから」


「わかった。なら、力試しには丁度良さそうだな」


「ああ、そのために考えたからね」


「あー、それと注意点〜」

 

 入間ののんびりとした声が聞こえてきた。


「私、運動苦手だからあんまり期待しないでね〜。他の人はスポーツ経験者だから、まあ、私にはお手柔らかに」


「ああ、わかった」


 つまり、相手次第ではこっちが圧倒的不利になるわけか。結構厳しい戦いになりそうだな。

 とはいえ、やることはひとつだな。とにかく目立つ。そして活躍する。これは球技大会であろうとなかろうと変わることは無い。

 かっこいいところを見せるのがとにかく最優先だ。

 

「それじゃあ、ちょっと声掛けに行くから少し待っていてくれ」


 そう言って、遊佐川はコートが空くのを待っている人に適当に話しかけに行った。

 流石カーストトップは違う。コミュ力化け物だな。俺だったら全く見知らぬ人にいきなり話しかけるなんて無理だ。

 少しすると、遊佐川は話が着いたのか戻ってきた。


「よし、相手が決まったから皆準備運動しておいてくれ。あそこにいる人達が、今回の相手だよ」


 遊佐川が指さした先にはガタイのいい男子が5人いる。皆バスケ経験者っぽい雰囲気だ。

 ……いやいやちょっと待てよ。


「遊佐川」


「なんだい?」


「レベル合わせるって言ってたよな」


「ああ。だから合わせたつもりだったけど……物足りなかったかな?」


「いや……なんでもない」


 おいおいおいおいちょっと待てよ。それ本気で言ってんのかよ。

 こっちは女子二人いるんだぞ。そんでもって他はサッカー部1人と初心者の俺。経験者は遊佐川しかいない。

 本当に力量差を考えて組んだのだろうか。


「うん、何となく言わんとしてることはわかったよ。でも大丈夫だよ。俺だって勝てない相手と戦うのは嫌だからね。だから、勝算はあるよ」


「……ならいいんだけどな」


 勝算……果たしてその賞賛とやらは何パーセントの確率で勝てるのだろうか。

 分からないが……まあ、決まってしまった以上はやるしかあるまい。

 分かったよ。やったるよやればいいんだろ。

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