第7話 遅起きは1000両の大損

「さて、次の話だな。ここから難易度は高くなるぞ」


 海星は俺に念押しするように言った。


「今回友達になれた久留米は、正直かなり難易度は低かったと言っていいだろう」


「まあ、それはなんとなく分かるけど……」


 久留米は元々、趣味を共有できる人が欲しいという欲があった。その共有できる人という役目に俺がジャストでハマることになった。

 だから、今回は伝えさえすればすぐに友達になれた。


「けど?」


「みんな好きなことはそれぞれあるだろ。それでなんだかんだ仲良くできないか?」


「いや、それじゃダメなんだ。それだとあのグループの人と別々に関係性が生まれるだけだ。それに、たまに話し相手になれるだけでグループに馴染むことは出来ない。だから、まずは行動で信頼を得なければダメなんだ」


「行動? 今度は何をすればいいんだ?」


 以前は調査から始まったとなると、今度も恐らくまずは知ることから始めろみたいなそんな感じだろう。


「猶予は残り3週間ある。その間に、一郎にはバスケの練習をしてもらう」


「バスケ……? なんでまたバスケなんだ?」


 それに3週間の間って……。

 運動部面倒いからやめたのに、また苦労しないといけないのか……。


「3週間後には球技大会がある。で、あのグループはかなりやる気だぜ。俺らはまだ1年なのに、優勝する気でいる。だから、一郎はバスケを遊佐川に教えて貰え。久留米のツテと誠意を見せれば、あいつも答えてくれる。後はひたすら紳士に向き合って誠意を見せれば、遊佐川を引き込める。遊佐川さえ引き込めれば後はこっちのもんだ。あいつが1番影響力が強いから、女子陣も勝手に受け入れる」


「なるほど……すげぇ話だな」


 確かに、それで上手くいけば一気にカーストトップのグループに登ることが出来る。

 でも……そこまで行くのに骨が折れそうだな。


「俺は簡単に言ってはいるけど、これは根気がいるし、何より遊佐川に評価されないといけない。手を抜かずに、とにかく自分のモチベーションを保たないとやっていけない。出来そうか?」


 出来そうか?

 そんなもの、決まっている。


「やらないとダメだろ。絶対できる」


 俺が言い切ると、海星は満足したように頷いた。


「それなら安心だな。なら、まずは動かないとな。久留米の信頼度はどうなんだ?」


「久留米とは家帰ったあとも連絡取ったりしたし、後は放課後に1回ゲーセンで遊んだかな。アイドルの曲詰め込んでる音ゲーがあるって言われて誘われたんだよね」


「お、いいね。それなら話は早いな。早速相談を持ちかけてみればいい。自分の持ってる手札はしっかりと有効活用して、確実に交渉しないとな」


 となると、相談を持ちかけるにしても理由が必要になるよな……。

 なんで俺が球技大会にそれだけ力を入れようとしてるのか分からないと、久留米も怪しむかもしれない。だからと言って、突然お前らのグループに入りたいなんて図々しいだろうから使えない。

 そもそも、それが通るなら最初から正攻法で行けって話だ。

 だから、不安要素は出来るだけ消せるほうがいい。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「……遅いな」


 俺は久留米と遊ぶ約束をしていたので、俺は駅に来ていたのだが、久留米は集合時間から10分以上遅れている。

 それでも、未だ連絡が来る気配はない。

 以前久留米とゲーセンに言った時もそうだった。基本的に集合時間から遅れてやってくるのだろう。待つだけ損をした。

 そして、集合時間から15分ほど過ぎると連絡が来る。


『すまん! 遅れるわ!』


 こういうのは遅れる前に言って欲しい。最初から遅れるのが分かってればこっちも時間を調整して出れるのに。

 まあ、今回は現地集合にしてしまったし、あまり関係は無いのだが。

 ぼーっと待ち続けてると、また連絡が来た。


『やばい電車止まった…… すまんけど時間どっかで潰しといて!』


『あと何分くらい掛かりそう?』


『わかんね! でも30分は掛かる!』


 30分……。なんとも微妙な時間だ。待っているのには長すぎるし、カフェやレストランを使うには時間が若干少ない。

 まあ、でも久留米が30分でここに来る保証はないし、何処か立ち寄って時間を潰すのが正解だろう。

 なんか、最近カフェ続きだな……。


「ちょっと、そこの君?」


 突然、女の子に話しかけられた。マスクとサングラスをしていていかにも怪しい風貌。

 顔は隠れているが、年は俺くらいなのは分かった。


「逆ナンですか?」


「ち、違うよ!」


「なら俺をトランクに詰め込むとか」


「しないよ!! 私私。見覚えない?」


「いえ全く」

 

 そんな顔を隠されて言われたら分かるものも分からない。

 

「サングラスとマスク。外しません?」


「え、それはちょっと……」

 

「じゃ、さいなら」


「ああ! 待って待って一瞬! 一瞬で良いなら!」


 それだけ顔を見せたくないとなれば、なにか理由があるのだろう。

 それならしょうがない。一瞬でも見えるどけよしとしよう。

 チラッと見せた端正で愛嬌のある顔立ちはどこかで見た事のあるような……。


「いや、やっぱり記憶にないや」


「ちょっとぉ! 君、あたしのファンじゃなかったの!?」


 なんだろうか。こやつは自分にファンがいるとか思っている痛々しい人なのだろうか。

 ……ということは置いといて。


「ああ、大将」


「あいよ! ってやっぱり覚えてるじゃん!」


 そう。この人は紛れもなく、ELE-が〜るのメンバー。マリちゃんである。、


「なんで、俺を呼んだの?」


「だって、あの時……というか今もそうだけど、私の事大将って呼ぶからさ。その呼び方はどこから漏れだしたのかなと思って……」


「あれ? 愛称じゃないんだ」


「会場に来てた人誰一人大将なんて言ってなかったでしょ?」


 そういえば確かに……。てっきり、仁奈が言ってるからそういうものなのかと勝手に解釈をしていたが、違うみたいだ。

 え? もしかして俺掴まされた?


「なんで大将なの?」


「知らないで言ってたの……? 私、地元ではお寿司屋をやってたから友達とかに弄られるんだよ」


 なるほど。仲間内での呼び方だったのか。それだと確かに、俺が突然そう呼ぶのには違和感がある。

 ん? じゃあなんで仁奈がそんなこと知ってたんだ?

 まあ、そんなことは分かりきってるか。


「仁奈と知り合いなわけか」


「えっ。仁奈ちゃんを知ってるの?」


「知ってるも何も、俺の妹だよ」


「……ええ〜〜〜!?」


 すごい驚きようだ。うん、いや確かに俺と仁奈はあまり似てないけどさ……。

 それでもその反応はないだろ。


「ま、まさか仁奈ちゃんに兄がいたなんて」


 あ、違う。そっちだったか。


「そっか。それならほっとしたよ。全くあの子は変なことを吹き込んで……。ごめんねー。なんかウチの仁奈が迷惑をかけたみたいで」


「いや、家の仁奈なんだけど」


「おっと、もうこんな時間……。ごめん! スケジュールが忙しいから……。またね!」


「おう」


 風のように去っていった。よくそんな忙しい時間に俺を見つけられたな。


「ごめん! 待たせたわー」


 そして、入れ違いで久留米がやってくる。

 早起きは三文の得とは言うが、久留米は人生で1度あるかないかレベルの大損をこいたわけだ。

 ドンマイ、久留米。

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