第121話 遺跡調査 16


side フレッド・ターフィル



「くそっ!何故こうも上手くいかないんだ!!」


 俺は昨日、じーちゃんから説教を喰らった後、自室にて1週間の謹慎処分を伝えられた。この謹慎以外に、例の奴のことでも腹を立てていた俺は、地団駄を踏みながら、上手く行かない現状に嘆いていた。


「アーメイ殿も王女殿下も、あの男に脅迫されているのは明らかなはず!それを皆見て見ぬ振りをしているのに、彼女達を助けようと奔走する俺を、何故白い目で見てくるのだ!」


俺の言動を見た村人達から向けられるありえない視線に、苛々が益々募っていく。


「どうする・・・あの男の魔の手から救う為には、彼女達の中に入り込み、奴の隙を窺う必要があるのに・・・」


現状では、あの男がアーメイ殿の近くにいる限り、彼女は俺に直接助けを求めることは難しいだろう。本心ではそんなことを気にせず頼ってくれれば、俺の剣術であの男を一刀のもとに切り伏せてやるのだが、余程の弱みを握られているのだろう。


彼女からの救援の要請は難しいとなれば、こちらが動くしかない。しかし、彼女はここから馬車で半日以上離れた遺跡を拠点にしているため、簡単に手を差し伸べられないのが問題だ。


「あの遺跡までの道中は、それなりに厄介な魔獣も出没するし、単独で行くのは難しいか・・・」


俺は自分が出来ること、すべきことを考えながら部屋をウロウロと歩き回って名案を思い浮かべようとしていた。


「彼女からは動けない・・・なら、俺が動くしかない・・・ただ、何をどうすれば・・・」


しばらく考えに耽っていると、ふと一つの考えが浮かんできた。


「っ!そうだ!!彼女に直接俺の実力を確認してもらい、その上で手を差し伸べれば、安心して俺の手を取ってくれるはずだ!」


あの男がどのような卑怯な手腕で弱みを掴んだかは分からないが、所詮は力の無いノアだ。直接的な戦闘力なら俺の方が上なのは間違いない。じーちゃんはもうボケてしまったのか、ノアであるあの男がこの国でも最上位の実力者などとのたまっていた。しかし、そんなことは絶対にありえない。


「いや、待てよ・・・もしかしたら、何らかの魔道具を使っているから、あの男の言うことを聞かざるを得ない事になっている可能性も・・・」


そうなると厄介だが、あの男の身ぐるみを剥いでしまえば問題ないだろう。


「よし!俺の剣術師の実力を見せつけ、怯えおののくあいつを地面に這いつくばらせてやろう!きっとエレイン殿は涙を流しながら喜ぶはず!そして奴に止めを刺せば、王女殿下からも感謝されるはず!」


そう考え、謹慎処分が開けてからの行動を想い描く。


「まずはあの拠点まで移動する手段が必要だな。となれば村の馬を拝借して・・・道中の護衛に2人はいるから・・・あの2人に声を掛けるか!あとは何か・・・うん、よし!こんなもので大丈夫だろう!我ながら完璧だな!」


思い付いたことを紙に書き出しながら、俺は謹慎が終わる1週間後を、今か今かと待ち焦がれた。



 そして、1週間後ーーー


「なぁ、フレッド?本当に勝手に馬を借りて大丈夫だったのか?」


「戻ったらお説教されるって事ないよね?」


 俺は今、遺跡への街道を昔からの友人である2人と共に馬に乗って疾走していた。この2人は子供の頃から俺の言うことには絶対逆らわず、俺のためを思って色々と動いてくれる親友達だ。


「大丈夫だって!俺は村長の孫なんだから!村にあるものは、将来俺のものになるんだぜ?今のうちから借りたって同じことだろ?」


「そ、そうか!さすがフレッドだな!」


「頭良いね~!」


「そうだろ?それに、俺達は今から悪魔の様な男から女性を救い出すんだ!称賛こそされ、説教される筋合いは無い!」


「「おぉ~~!!」」


2人から尊敬の眼差しを浴びて気分をよくした俺は、早く遺跡に到着しなければと、馬の速度を早めた。


しばらく整備された街道を進んでいくと、道が凸凹した獣道のような狭い道へと変わっていく。ここからあと1時間も馬を走らせれば目的の遺跡に到着だ。一旦馬を休ませようと、馬を降りて手頃な場所を探していると、前方に灰色の外套を着た3人の見知らぬ者達に気づいた。


(ん?誰だ?村の奴・・・じゃないよな?こんな場所に来ることなんてあり得ないし。となると余所者か?冒険職の奴等が依頼か何かで来てるのか?)


その人物達の事を怪しいとは感じつつも、俺は将来あの村の村長になる存在だ。こういった人物の対応も仕事の内だろうと考え、彼らに声を掛けることにした。しかし、こちらが声を掛ける前に、向こうから話しかけられてしまった。


「失礼。この辺の村の方とお見受けしますが、道を聞いてもよろしいでしょうか?」


3人のうちの一人が、そう聞いてきてた。どうやら道に迷っていたらしい。この辺は街道らしい街道も無いので、道に迷うのも無理はないだろう。


「えぇ、構いませんよ。私はこの近くにあるターフィル村の村長の孫ですから。困った方を放ってはおけません」


「おぉ!素晴らしい考えです!私達のような道に迷って途方に暮れている者にとってはとてもありがたいです!是非、後程村へと出向き、あなたの善行を村の方達に知っていただきませんと!」


「ははは!そこまでしていただかなくても結構ですが、まぁ、どうしてもというのであれば!」


俺は彼の申し出に気分を良くして、満更でもない表情で彼らの目的地について尋ねた。


「ところで、どちらへ向かわれようと?この辺で目的地になりそうなものなど、少し先の遺跡くらいしかありませんが?」


「おぉ!そこです!まさにその遺跡が我らの目的地でして」


「それでしたら、ちょうど我々もそこに向かおうとしていましたので、良ければご案内しましょう!」


「これはありがたい!お言葉に甘えさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「勿論です!困ったときはお互い様でしょう!」


「さすが将来の村長様ですね!実に懐が広く、思いやりがある方だ!あなたの村は将来安泰ですな!」


彼は俺を正しく評価してくれているようで、今まで自分が聞きたかった言葉を立て続けに聴かせてくれて、とても気分が良かった。しかし、そんな気分を害するように連れてきた親友達が口を開いた。


「フ、フレッド。相手の素性とか確認した方がいいんじゃないか?」


「そうだよ。変な人だったら不味いんじゃないかな?」


不安な表情でそんなことを言ってくるこいつらの言葉を、俺は鼻で笑った。


「大丈夫に決まってるだろ?俺は将来の村長だぞ?人を見る目には自信があるんだ!こんなにも俺を称賛してくれる人達が、悪い人な訳ないだろうが!!」


「そ、そう?フレッドがそう言うなら・・・」


「そうだね。フレッドが言うなら・・・」


コイツらは渋々といった様子で引き下がったが、そんな心配などお門違いだという確信が俺にはあった。その為、彼らが何者なのだとか、何の目的でここまで来ているか等、些末なことは考えから消えていた。



 彼からも馬を走らせてここまで来ていたようで、近くに馬を休ませていた。我々も少し馬を休ませてから出発し、6人で遺跡へと向かうことになった。この人数なら仮に魔獣に遭遇したとしても何とでもなるだろうと考え、安心して歩みを進める事ができた。


途中、彼らが何かを道に落としているのが目に入り、気になって聞いてみた。


「失礼!何か落としているようですが、何をしているのですか?」


「すみません。これは道しるべのようなものでして、帰り道も迷わないようにと目印を置いていっているんですよ!」


彼はそう言って、何かが入っている袋を掲げて見せた。


「なるほど!確かにこの道は馴れなければ心配でしょう!しかし、良ければ帰り道も案内致しますよ?」


「ははは!大丈夫です!これ以上お手を煩わせるのも申し訳ありませんからね。それに、我々にも色々と予定がありますし・・・」


申し訳なさそうな表情で断りを入れてくる彼に、あまりこちらから押し付けるのもどうかと考えて、それ以上は何も言わなかった。


「そうですか。では、都合が合えばということで!」


「ええ!そのように!」


彼は人好きのするような笑顔を浮かべていたが、何となく貼り付けられたような表情に違和感があった。ただ、それも出会って然程時間も経っていないせいもあるだろうと、特に気にすることはなかった。



 そうして1時間ほど馬を走らせると、陽が落ちる前に周囲に木や草が無い荒野へと出た。ここまで来れば目的の遺跡まではもう少しというところで、並走していた彼が声を掛けてきたので、馬の歩みを止めた。


「ここまでで結構ですよ!本当に助かりました!」


遺跡まではあと1㎞程あるのだが、彼はもう大丈夫とばかりに感謝を告げてきた。


「本当にここでよろしいのですか?遺跡はもう少し先ですよ?」


「大丈夫ですよ。この辺から調査することがありますのでね」


「そうですか、何かの依頼なのですね。大変でしょうが頑張って下さい!では、我々はこれで!」


「はい。ありがとうございました!またお会いしましたら、お礼させていただきましょう!」


そう言って手を振る彼らから離れた。もしお礼をというのなら、俺の村まで来てくれれば自分の評判が良くなりそうだと笑みを浮かべながら遺跡を目指した。


そうして、数分で目的の遺跡が見え始めてきた。


「見えた!待っていろよアーメイ殿!俺が今からあなたをお救いに上がりましょう!!」


俺の行動力に感極まって抱きついてくるであろうアーメイ殿の姿を想像して、笑みを浮かべながら手綱を強く握り直した。

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