3話目【憧れとまぶしさ】

 ヒヨリさんとは、先週東京で催された小規模のオフ会で会っている。数か月ぶりに会って話して、彼女の行動の原動力とでもいうような、気質のようなもののカケラにあらためて触れた気がした。そんな機会。

 彼女は私の向かいの席に座り、青りんごチューハイを片手に様々な話をはじめる。イラストの話、日々の更新の話。これからは一次創作もたくさんやっていきたいとか、そして共通の話題であるゲームの好きなシーンについて。

 そのやり取りを通じて否応いやおうなしに突きつけられる一抹の思い。


 このひとは、日々動いている。

 それに対して、私は?


 それを思うと、自分の内側にガラス片のようなおりをふりかけられた思いがした。ヒヨリさんの創作に傾けるひたむきな姿勢に尊敬の念を抱きつつ、そのまぶしさに引き寄せられる。光沢こうたくのある軌跡きせきを道にきざみながら走るような、そんなものをまとっていた。

 そんな彼女は今、目の前で私とチューハイをちびちびと煽りながら好きなゲームの会話に興じている。彼女からまぶしさを覚えたことは忘れずにいて、ここはただ会話を楽しむことにしようと思っていた。

 でも、ここでひとつ困ったことが起こる。

 ヒヨリさんはチューハイを口にしながら、こんなことを言っていた。

「私なんてまだまだです。まだいろいろと足りません。もっと描いて勉強して、周りのすごいひとたちみたいに——」

 この言葉自体は、それほど珍しいものではなかった。普段のリプライやメッセージのやり取りでも聞く言葉だったし、彼女自身の性格からして違和感のないものだったから。

 だが、次に出た言葉がくせ者だった。

「私はトモエさんにだって憧れているんです」

 いきなりで、言葉に詰まる。背筋にピリッと電流のような刺激が走った。

 さらに彼女は、

「トモエさんの頭をかじれば、その文章力を分けてもらえますかね?」

 と、さらりと言いのける。

 湧いて出る諸々の言葉を頭の隅に追いやった。それからふっと噴き出してから言葉を返す。

「私の頭はアンパンじゃないです」

 それでも食えるもんならどうぞと言うと、彼女は肩を揺らして笑った。

 彼女はほんのりと酔いの気配を纏ったまま、グラスを空にしてテーブルに置く。手もとでトンと鳴る小さな音が妙に耳に残った——。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る