懐いてしまった
津嶋朋靖
第1話
「困った事をしてくれたわね」
俺の横の席で、二十代前半の小生意気な女性科学者がディスプレイを凝視している。
専門は宇宙生物学だとか言っていたが……
「俺のせいじゃない」
「いいえ、あなたのせいよ。なんのために、人を常駐させていると思ってるの?」
今、俺達がいる場所は、ラグランジュ第二ポイントに浮かぶ隕石迎撃衛星の制御室。
月面基地にいたこの女が、ここに乗り込んできたのは十分ほど前の事だ。
「この衛星は月面基地からでも操作できるのに、人を乗せてるのは最終判断を任せるためよ。隕石と間違って人造物を撃たないように」
だが俺は撃ってしまった。しかし……
「君ならあれが人造物だと分かったのか?」
俺はディスプレイを指さす。
そこにあるのは、サツマイモの様な形をした一キロほどの石質コンドライト。
どう見ても小惑星だ。
もちろん、撃つ前にできる限りの観測はやった。その結果を見ても、ケイ酸鉄を主成分とした典型的なS型小惑星。質量も重力分布もアルベドも、あれがただの小惑星だと示していた。最後に俺が目視して確認したが、自然の小惑星以外の何物にも見えなかった。
それでも、彼女は映像を凝視し、俺が見落とした何かを見つけようとしているが……
「……確かに、普通の小惑星と見分けがつかないわね」
ほら、見ろ。
「でも、それを見分けるのがあなたの仕事よ。できないなら、ここにいる意味がないわね」
ムカつく。だが、正論だ。
まったく、なんでこんな事になったんだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます