転校生は吸血鬼!?②




一時間目が終わった後、青唯はやはり自分の置かれた状況に嘆いていた。


―――あー、どうしよう。

―――全然授業が分からなかった・・・。

―――やっぱり授業でやった範囲を自分一人で勉強するのは無理があったかな。

―――茜鈴にノートを見せてもらおう。


そう思い席を立ったのだが、茜鈴のところへ向かう前に一真に声をかけられた。


「青唯さん」

「一真くん? どうしたの?」

「よかったら俺のノートでも見せようか?」


―――え、エスパー!?


確かにノートを借りたいとは思っていたが、それを口に出した憶えはない。 それに青唯からしてみれば、一真との接点は今朝の衝突だけだ。


「いや、え、でも・・・」

「大丈夫。 ちゃんと二週間分の授業の内容はとってあるから」

「そんな。 今日知り合ったばかりなのに、いきなり頼るなんて」

「でも今、勉強のことで困っていたんじゃないの?」

「ぅ・・・。 う、うん、そうなの。 ありがとう、一真くんのノートを見させてもらうね」

「うん」

「そ、それじゃあ」


一真からノートを受け取った。 一真の意図は分からないが、単純な親切心で言っているのだとしたら断ることはできない。 

ただあまりのタイミングのよさに何となく気まずく、ここから離れようとした瞬間クラスメイトとぶつかってしまった。


「わッ!」

「大丈夫!?」


転ぶ寸前に一真に抱き抱えられるように支えられていた。


―――近ッ・・・!


恥ずかしくて顔を背け、すぐに離れた。 友達でもなく、まだ知り合いレベルでしかない相手だ。


「あ、あの、支えてくれてありがとう」


頭を下げてみるものの何となく気まずい。 ぶつかったクラスメイトにも謝っていたところで、他の女子に呼ばれる。


「青唯ー! 今日日直だよね? 次の先生怒ると怖いから、黒板の字をちゃんと消しておいてねー!」

「あ、そうだった!」


ノートを自分の席に置き慌てて黒板へと駆けていく。 上部まで文字が書かれていて、台か何かがないと届きそうにない。


―――どうしよう、高くて消せない・・・!


台を取りに行くだけの簡単な話であるが、ジャンプすれば届きそう。 そう思ってもがいていると後ろから手を添えられた。 見ると真後ろに一真がいたため咄嗟に離れる。


「一真くん!?」

「俺なら届くからが代わりに消すよ」

「あ、うん、ありがとう・・・」


感謝よりも気恥ずかしさが勝ち、それでも仕事を終えるため黒板の文字を消し終えた。 もう一度礼を言おうとしたところで一真に先に話しかけられる。


「他にも手伝えることがあったら何でも言って。 黒板の字を消すことでも、プリントを配ることでも」

「そこまでしなくてもいいんだよ?」

「青唯さんはまだ病み上がりでしょ? だからもっと頼ってよ」


何も返せず承諾してしまった。 自分が病み上がりというのは事実だし、善意を否定するのも難しい。 授業が始まってもどこか身が入らなかった。 一真のことがずっと脳内に浮かび上がってしまう。


―――集中しないといけないのに、集中できない・・・。

―――あそこまで関わられると少し怖いんだよなぁ・・・。


そう考えているとうっかり消しゴムを落としてしまった。


「あ・・・」


拾おうとすると遠くで席を立つ音が聞こえた。 見ると一真がやってきて消しゴムを拾ってくれる。


「はい」

「あ、ありがとう・・・」

「おぉ、一真は優しいな」


先生が感心するように言ったのを見てか、周りからは黄色い歓声が上がる。 青唯は気まずくて仕方がなかった。 そのような様子をずっと見ていたのだろう茜鈴が、授業が終わるや否や駆け付けてくる。


「ねぇ! 一真くん、絶対青唯に気があるよね!?」

「んー、どうだろう。 今日会ったばかりなんだけど」

「でも異常な程に青唯に優しくするじゃん! 好意を持っていなかったら変っていうか、怖いでしょ。 それも今だって」


茜鈴の視線を追いかけるとそこには一真がいた。 目が合うと彼は微笑みを浮かべる。


「あはは・・・」

「ね?」

「でも今日知り合ったばかりだし、相手のことも何も知らないから・・・」


話していると一真がやってきて、心臓が跳ねた。 好感情からではなく、どちらかと言えばヒヤッとした感じだ。


「青唯さん、よかったら一緒に話さない?」


正直な話、今現在の状況でこれ以上踏み込みたくはなかった。 そう思って茜鈴にチラリと視線を送ってみたのだが、ニマッと笑うと楽しそうに言うのだ。


「いいね! じゃあ二人でごゆっくりー! 青唯、応援しているからね!」

「ちょ、茜鈴・・・ッ!」


意図とは反した言葉と共に、手を振りながらここから去っていった。


―――一真くんがここまでする理由が、私には分からないよ・・・。 


そう思うも断ることができず、青唯は一真と話すようになった。



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