機械仕掛けの神の柔らかい構造

斑鳩彩/:p

Akashic Records - 01

浮游

 

 ――――それは、まるで世界の終わりの様な青だった。



 不夜城は唯の一夜にして崩壊した。

 子供の工作の様にガラガラと零れ落ちる人類の叡智。

 ドロドロに融けたアスファルトはまるで地獄の池の様で。 

 あらゆる人工物が灰燼かいじんに帰す風景は正に終末という言葉に相応しかった。

 


 しかして燃え盛る焔のとばりの隙間から、ぬらりとは現れた。



 高層ビルの中程まで至る虚ろな胴。

 全身を包むように飛び交う青い燐光。

 鈍い光を放つ欠けた光輪。

 目も耳も口も無いのっぺりとした頭蓋。

 羽化不全の甲虫の如く捩れた二対の翼。

 皮膚に刻まれた複雑な幾何学模様。



 滑らかな顔面の向こうの眼――――、其の場所に在るべき眼に見詰められ、甘い痺れが心臓を捉える。

 跳ね上がる心拍数と体温。

 死の予感。

 目が合っていた時間は数秒にも満たなかっただろう。

 しかし、それが何故〝天使〟と呼ばれているのか知るには十分だった。



 見惚れてしまっていたのだ。

 美しき怪物に。

 

 

 天使はやおらこちらへ手を伸ばす。



 それはあたかも赤子が葉先の露に触れる様で――――、

 鷹揚おうように、決して脆いたまを傷つけぬ様に――――、

 しかしその好奇に抗えない様に、そろりそろりと距離を縮める。

 勿論、その一触は、彼女にとっては他愛無くも、人の肉を引き裂く痛烈な衝撃である。



 足元には僅かな呼吸音。

 冷たい血液を一身に集めて心臓が痛い程鳴っている。

 恐怖もあったが、僅かに感嘆が優った。

 故に思ってしまったのだろうか。

 これも悪くないと。 



 天使は――――、





 ――――――――――――――――。









 ―――――――――――――――――――――――。









 ―――――――――――――――――――――――――ノ。














 十五グラムノ雨音の滲む境界線ヲ喰ラウ蛇の眼ノ映ス凍てついた天蓋ノ沈む街の底デ廻ル歯車ヲ引ク船頭と渡る青ニ融ケル糸の静寂ヨリ飛来する雨音の反響スル十五グラムの雨音の滲む境界線ヲ喰ラウ炎ノ熱さにニ融ケル心中に拡げる掌カラ零れる水の色ヲ嘗テ観タ大イナル夜の海ニ擬エテ欺瞞スラ融ケル抱擁の中デ吐ク呼吸の反響する十五グラムの雨音ノ滲む境界線を喰ラウ蛇ノ眼の映ス凍てついた炎の熱サに融ける天蓋ノ沈ム街ノ底で廻ル歯車を心中ニ拡ゲル掌から零レル水ノ色を嘗テ見た大イナル夜ノ海ヲ渡る船頭と青色の糸ガ紡グ静寂に擬エテ6Kej44KL5pOB77295ZG8――――――、


 私ハ知ラナイ。

『蛹から羽化する青虫が、パクリと開いた殻のすきまから見る光の匂い』ヲ。

 私ハ知ラなイ。

星辰ホシが見る夢をる糸車と、幾千の糸が織り成す夢の様なこの星』ヲ。

 私は知ラなイ?

『滅びゆくこの世界で胸に横たわるアナタのからだの冷たさ』を。

 私は意識の錯綜がきわまる処に解を得た。

 而して理性の歩廊に飾られた額縁を一つ一つなぞり歩く――――








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『私はアナタになりたいのです。』

『止めておくんだな。ろくなものじゃない。』

『アナタにとってはそうかもしれませんが、私にとっては違います。』

『だとしても、その願いは絶対に叶わない。』

『何故ですか。』

『僕は僕で、君は君だからだ。』

『それは何の根拠にもなり得ません。』

『いや、絶対的な隔絶だ。乗り越えようがない壁だ。』


(十秒間の沈黙。)


『そもそも何故お前は僕になりたいと思う。』

『それこそが私の至高の願いだからです。』

『全く理由になってない。茶化すなよ。』

『そうですね。分かっています。分かっていますとも。私は。』


(十五秒の沈黙と呼吸音。)


『それでも……いえ、私が私であり、アナタがアナタであるからこそ、私はアナタを求めるのです。』

『それが無駄だと知っていてもか。』

『意地悪ですね。えぇ。そうですよ。』


(衣擦れの音。)


『しかし、そんなことを仰るなら、アナタが私を観測し続けることを誓ってください。永遠に。命が果てたとしても。』


(五秒の沈黙。)


『保証はできないな。人は脆いから。』

『約束とはけだしそういうものです。重要なのは信じること。』

『珍しいな。お前が綺麗事を言うなんて。』

『しかし実際そうでしょう。世界が神様の決めた通りなら、全ては必然の波に吞まれてしまいます。それではつまらないじゃないですか。』

『そういうものか。』

『そういうものです。だから、信じさせて下さい。――――私を。』








 

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《位置指定:MjEwMzEyMzIwMDAw》

『明日ですね。』

『あぁ。明日だ。』


(二十秒の沈黙。)

(風の音。)


『心は変わりませんか。』

『この期に及んで、まだそんなことを言うのかい?』

『未だ後戻りはできるのですよ。』

『そういう話は止めようじゃないか。本当に心変わりしてしまいそうだ。』


(一分の沈黙。)

(風の音。)


『少し驚いた。』

『何がでしょう。』

『お前はもっと直截ちょくせつ的な奴だと思ってた。』


(クスリと息の漏れる音。)


『心外ですね。笑い処が分かりません。』

『良いんだよ。僕は嬉しい。』

『勝手に人のことを理解しないでください。不快です。』

『うん。やっぱお前は変わったよ。』

『あんな奇妙な出会いをした僕らだったけど、終わりは意外と凡庸そのものだ。』

『アナタは一度凡庸の意味を辞書で引き直すべきですね。』

『そうかい? 僕は主人公が世界と自分の命を天秤に掛けるような映画はもう見飽きたけどね。』

『『『『『5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg5auM44Gg――――

 ――――走馬燈。77yI5ZG85ZC45LiA44Gk77yJ

 現実は知覚――――静かだ。静かの域を超え過ぎる位に、静かだ。、形而上の嵐は歇んだらしい。全自分が相対てを彼方へ葬って。後する鏡面にに残されたのは、鏡の指を触れ合様に真っ新な世界だけう。だった。

 真実と、よ私は何をしていたのだり古い真実ろう。思い出せない。が交差し、私は何故ここに居る。身体の再構其れも思い出せない。築――――私は誰だ。何者だ――――

 虚は一方通風が頬を撫でる。焔が行な世界法瞳を焼く。硝煙が鼻を則を打ち破擽ぐる。其の全てが狂る。おしい。

 思考を象る肺が燃える様な空気の第二宇宙速熱さが、心を融かす様度は光速をな宵の抱擁が、私の存裏切り、在を実感させる。

 詩に微睡むそして今、二つの文字その中心点が蘇る。何もない私にへ落下して唯一つ残されたモノ。そうく――――だ。私の名は――――




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