笑い声はどこからか

十錠法奧終おわり 罪の意識』


 最後の十字架が崩れ落ちる。同時に響いていた悲鳴が止む。


「貴様は強い。しかしその力を手に入れるまでにどれほどの犠牲を払った? どれほどの人間を利用した? その罪悪感、後悔が貴様の精神を狂わせる。自らの罪の意識で死ね」


 眼鏡の男は膝を地面につき顔を天井に向けた状態で動かなくなる。


「ア……ァ……ァァア……………………アッ……アッ…ハッ……はっ……あははははは」


 骨の粉砕は二の腕付近にまで侵略していた。しかし聖堂には彼の笑い声が響く。


「なんだ……。なぜ笑っていられる。なぜ意識があるのだ。なぜ死なないのだ!」


 笑い声が止む。同時に何事もなかったように立ち上がる。


「どうだったかな。僕の叫び声は心地よかったかい? だけど聖堂の力を利用してこれか。想像よりも恩恵は受けられないということだね。ああ。こういうことだよ」


 直後、男の体から真っ黒い頭の無い鎧が出現し男の体と分離する。そして頭の無い鎧は刀を造り自分の肩に突き刺すと体からその腕を切り落す。


「そういうことか。これが繋霊か……」


 切り落とされた腕の鈍い音が止んだ。


「ご名答だよ。黒瑕疵のくろかしのひめ。彼女は僕の身代わりさ。彼女がいる限り僕が傷や痛みを負うことはない。そして黒瑕疵の媛は痛みを感じない。言葉を交わすことはできないが自分が死なないようにすること、僕を守ること、そして命令を聴くことはできる」


 白髪の男は目を細める。


「痛みが効かない奴はこれまでにだって見たことはある。だが罪の意識は貴様に芽生えるもの。そいつに反映されず貴様を襲うはずだ。それなのになぜ貴様は平気なのだ……」


 眼鏡の男の顔は笑っていない。


「罪の意識? なぜ僕がそんなものをもっていると思ったんだい」


 外で大きな風が吹き、窓ガラスをガタガタと揺らす。


「人はだれしも後悔や罪悪感をもって生きている。他人が見てどんなに人生がうまく進んでいるように見えたとしてもそこには負の感情が必ずある。それにその繋霊、もとは人間なのだろう? そんな姿にして何も思わないのか!」


 眼鏡の男は、はっはっはっと大きな笑い声をあげる。


「僕が人間だからさ。なぜ後悔や罪悪感を感じる必要がある? 僕はただ楽しんでいるだけなんだ。彼女だってそうさ。僕は彼女を繋霊にして感情というものを奪った。だけどなぜそこに罪悪感を感じるんだい。繋霊にし、感情を奪い、人間のような外見はないがそこには強さ、そして僕に必要とされる存在意義がある。悪というのは見方を変えれば善にもなるんだよ。君は、僕から見れば悪さ」


「その考え方が悪だと言っているのだ!」


 白髪の男は剣を振るうが黒い鎧の繋霊に残った左手で受け止められる。


「どうしたんだい? もしかするとさっきので霊力が底を尽きたのかな。残念だ。もう少し君の実力を見てみたかったんだけどな。どのみち、目的は果たせた。あとは、君をどうするかだけなんだけど」


 白髪の男は後ろへと下がる。


「偽物ごときが。調子に乗るなよ。所詮貴様は我々がもつ霊の力を真似ているだけだ!」


 眼鏡の男の口元が動く。


「その通りだよ。だけど偽物なんて言い方はひどいな。僕は君たちと別の方向の進化を遂げようとしているだけだよ。ほら、口が悪いから」


 窓が強く揺れ数秒もたたないうちにガラスは割れ、壁が崩れてゆく。


「クソが……」




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