第56話 ライナと合流
出発の前日、おもわぬ客人がやってきた。
昼食をとる前。部屋を誰かがノックしてくる。
「入っていいよ」と返すと、すぐに扉がバタンと開いて、入って来た。
「センドラー様~~。会いたかったですぅ」
黒髪にツインのかわいらしい女の子。ライナだ。それにミットもいる。
ライナは私を見るなり目をハートマークにして胸の飛び込んできた。
一度私のほっぺにキスして、うっとりとした表情で私をじっと見つめる。
目にハートマークがついているかのような、とろんとした目つき。
センドラーが、汚いものを見るかのようにけげんな表情で私達を見つめている。
「けど、ライナ、ミット。どうしたの? ラストピアからこっちに来て、大丈夫なの?」
そうだ。二人は私がマリスネスに行く代わりにラストピアの職務につくよう言われていたはずだ。
ライナは祈るように重ね合わせ、その理由を離し始めた。
「大丈夫だニャ」
「はい。ロンメル様が、こっちは大丈夫だからセンドラー様のところへ行くようにって指示されたんですぅ~~」
そ、そうなんだ──。
(多分、アイツもこの一件の重要性に気付いたんだと思うのぉ)
(どういうこと?)
(領土の併合と、リムランドが絡んでいる事──辺りね)
なるほどね。じゃあ、なおさら頑張らないと。
「ライナ、ありがとうね。あなたが来てくれて、本当に助かったわ」
私がライナの両手をぎゅっと握る。ライナは顔を真っ赤にして、小さい声で言葉を返した。
「あ、ありがとうございます……」
こういういつもは押しが強いけど、私が積極的に行くと、縮こまってしまう所、本当にかわいい。
そして今度はミット。私のところに近づいて、言い放つ。
「ラストピアでは、センドラー様しかできないことがいっぱいあって、早く帰ってきてもらった方がいいって言われたんだニャ」
私しかできないこと。いっぱい……。帰ってきたら残業の嵐になりそう。
けれど、二人が来たのはとても嬉しい。
私はにっこりとほほ笑んで、言葉を返す。
「ありがとう。私嬉しいな。よろしくね」
「へへへ……」
満面の笑みで私に抱き着いているライナ。
二人がいれば、さらに心強い。頑張っていこう。
そして私達はコボルトの人たちがいるところへと旅立った。
そんなことでみんな一緒になり、マリスネスを出発。
ロストの話によると、ここから南へ馬で数日のところにある場所らしい。
幌のついた馬車で道を行く。街を出て、山や草原地帯を通り過ぎて数日ほど。
「──到着しました。ここがコボルト族たちの居住区です」
(──遊牧民みたいな生活をしているのね)
」
大きな川沿いにある、草原が広がる平原。グラス平原。
まるで遊牧民のような白い大きなテント。
円形で大きい形をしている「ゲル」と呼ばれる代物。
彼らの移動式の居住テントだ。
「ゲル」がたくさん立ち並ぶ集落のような場所だ。
そして、そのテントの並ぶ集落の中央に、彼らはいた。
「ようこそようこそ。ペタン様ご一考ですね」
「ああ。そうだ」
「こんなところへいらしていただき、ありがとうございます」
目の前にいる獣人の男は明るい口調で出迎える。
服装は私達人間とは違い、ズボンのような物しか着ていない。上半身は軽いジョッキしか着ていない。
私達より一回り大きな肉体が露出している。茶色の筋肉質な肉体。ふさふさのしっぽ、毛深い足。資料で見たことはあるけれど、実際に見たのは初めてだ。
この人たちがコボルト族か……。
緑色の草原の中。集落の中心地に数十人ほどが固まっていて、私達を歓迎してくれている。
そして、その中心にいる、ひときわ大きな身長を持つ人がこっちに向かってきた。
「どうも。俺が、こいつらを束ねている首長のウェイガンだ」
「こちらこそ、良くよくマリスネスに来てくれた。よろしくな」
そして隣にウェイガンと比べると体つきが細くて、一回り若く見える。
そんな彼が行儀よくお辞儀をして、話しかけてきた。
「私はウェイガン様の補佐官を務めているベルクソンと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしくね」
そしてペタンとウェイガンはぎゅっと固く手を握り、強く握手をする。
私も、ベルクソンと握手。
国王だけあって、こういったマナーも心得ているようだ。ここまでは順調、悪い人ではなさそうだし、相手も好意的だというのがよくわかる。
そして目の前のゲルに入ると、まるで会議室の様に机とそれを取り囲むように一人用のソファーが置かれていた。
ウェイガンが一番奥の上座らしき場所に座ると、私達もその周りの席に座る。
そして侍女らしき人がお茶を出してくれた。
コーン茶というものらしく、今まで飲んだことがない独特な味をしている。おいしい。
(ちょっと、のっきに味わってる場合? 話始まるわぁ)
(ああ──ごめんごめん)
すぐにコーン茶を机に置く。
全員が着席するなり、すぐに会議が始まった。
まず、簡単にここまで逃げてきたいきさつをウェイガンが話す。
やはり不当な扱いを受け、ここまで逃れてきたみたいだ。
それから、ペタンが査察について話す。「あなた達を救いたい気持ちはある。しかし、国民の命を預かる以上、審査は必要だ」そう言って、審査の必要性を説明。
「それは、私達としても了解しています。ですので、おもてなしを受けいただいた後、私達の集落をご案内いたします。それで、私達を受け入れていただけるか判断いただきたいです」
「──わかった。ただし忖度はなしだ。しっかりと判断させてもらう。いいですね」
「構わない」
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