第3話 私、痴女なんかじゃないのに……
「近頃、町の冒険者ギルドでは一人の人物が台頭し、実力者になっていると聞いた。ハイドという人物だ」
「それは、私も聞いたことがあります。何人もの冒険者を束ねるパーティーのリーダーで、すでにBランクにまで冒険者ランクを昇格させたと──」
「ああ、早速ハイドに協力を取り付けてほしい。あいつは確か、ギルドによく来ていると聞いた。そこに行って政府と直悦契約してほしい。冒険者でいるよりも多くの報酬を与えるといえば大丈夫だろう」
そ、そういう事か。とりあえず私達に敵意を向けている問うわけではなさそうだ。
「わかった。懇願してみるよ」
隣にいるロンメルがぶっきらぼうに言葉を返すと、センドラーが脳裏に話しかけてきた。
(秋乃、エンゲルスに質問して、どうしてそれを私達に頼んだのかって)
(わかったわ)
センドラーの言うとおり、どうして私たちなのかを問いかける。私にはわからないけれど、何か疑問でもあるのだろう。
するとエンゲルスは一瞬だけ目を泳がせ多後、深呼吸をして言葉を返す。
「新しく領主になったので、各大臣や領主たちにあいさつ回りをしなければならなくてね、いろいろと手が回らないのだよ。だから、あなた達に業務の一部を頼んだ。悪かったかな?」
「いえいえ、気になっただけです。ぜひお任せください」
私はそう頭を下げる。そして私とロンメルはそのまま外へ。
人通りの多い繁華街を抜け、冒険者ギルドへと続く道。
この街、ラスト=ピアはリムランドと比べて亜人の比率がとても多い。
毛耳の亜人や、耳が長いエルフなどをよく見かける。
剣や斧を持った冒険者とすれ違い、もう少しでギルドにたどり着こうとしたとき、舎人にいるロンメルが話しかけてきた。
「一ついいかい?」
「何?」
「僕は、姉さんを信用しきれていない。もちろんあなたもだ」
確かに、今まで彼と親交を気づいたわけではない。私は王都リムランドから来たよそ者。
後継者争いに敗れたはぐれ物同士というくらいしか共通点がなく、一緒に行動するのだって今回が初めてだからね。
「まあ、それはわかるわ」
「今回の仕事だってそう。姉さんに言われたから仕方なく手は組む。けれど、変なことをしたら、あなたを守ることなんてしないから、そのつもりでいてね。むろんそれは、姉さんもだけどね」
その言葉に私は心が引っかかった。
彼には、軽く同情する。
自分の母親が正室ではなく、人の夫から寝取った妻だという完全に自分ではどうにもならないところで決まってしまったのだから。
今すぐにその思いを断ち切るなんてできないし、それを要求するつもりもない。
だから、私が返す言葉は決まっている。
私は笑顔で宣言する。
「そ、そう。だったら、信頼を得られるように私頑張るよ」
「あっそう」
「私は、あなたの事落ちぶれたなんて思ってないからね」
「口だけなら、なんとでもいえるよ」
ロンメルがぶっきらぼうに言葉を返した。
まずは彼と、エンゲルスの信頼を得られるようにしたい。
私は秋乃として一度目の人生を、センドラーとして二度目の人生を経験してわかったことがある。
それはどこの地へ行っても、どの組織へ行っても絶対にやらなければいけないことがあるということ。周囲からの信頼を得ることだ。
周囲からの信頼がなければ、当然支持を受けることも出来ない。
そうなればどんな正論を言っても聞いてくれないし、素晴らしい政策を提言したって耳を傾けてくれない。
そして、それができなかったら私はこの地に追放されたのだ。
今回は、リムランドの時の様に信頼を失うようなことが無いようにしたい。
そして道を歩いていると、脇道に気になる光景が見えた。
「あの子、どうしたのかな?」
なにやら大きな木の前で困っている子供がいた。
しょうがない。いったん説得は中止だちょっと声をかけてみよう。それに気まずい雰囲気が何か変わるかもしれない。
そう考えたわたしは男の子の元へと早足で向かっていく。
「ごめん、ちょっといいかな。君、どうしたの?」
「あの果物、もう高い所にしかなくて取れないの」
あの果物。誰のでもないので食料の足しにしているが、手の届く場所にある物はみんな取ってしまったらしく、高い所にしかないそうなのだ。
黄色で手のひらサイズの果実だ。木の上にいくつか無乗っている。けれど高い所にしかなくて手も伸ばしても届きそうにない。
「よし、あれを取ればいいのね」
「センドラーさん。無茶だよ、なんか棒でも持ってきてそれで落とせば──」
そして私は木に登る。以前の世界では、私は子供のころ木登り遊びをしていたことがある。
今は違う身体で、感覚がそこまでつかめないけれど、その時の感覚を思い出し木を登る。
なれない感覚で苦戦するものの何とか木の実と同じ高さへ。それからゆっくりと猿の様に木の枝をつかみ、木の上を移動する。
そしてそれを数回くりかえすと、とうとうたどり着いた。
「おい、見つけたよ!」
「すごい、お姉ちゃんありがとう」
(あんた、まるで猿みたいねぇ)
何とか木の実の元へとたどり着く。私はその果実を右手もいで取った。嗅いでみたが、オレンジに近い果物で食べてみたらおいしそうだ。
私は子供の分と自分の分をいくつか腕に抱える。
そして木の実を子供に向かって落とす。そうすると役目を果たしたせいかほっと息をつき、どこか気が抜けてしまう。
そして──。
「やべっ、手が滑った!」
なんと私はその木から落っこちてしまった。
いてて、尻もちをついてしまった私。
左右を見回すが がいない。そしてお尻からはもごもごとした声と、ボコボコとした感触。まるで人のような。
まさか──、私は恐る恐るその何かをまたいでいる感触がある股の下に視線を置く。
「セ、センドラーさん。早くどいてくれよ、苦しいんだから」
まさか、私とんでもないことしちゃった?
あわてて私はお尻を抑えながらすぐに立ち上がる。そこには、苦しそうに息を大きく吸い込むロンメルの姿があった。
悪い予感は的中しちゃった。こんなプレイは趣味じゃない。
(確かに男を尻に敷くって言葉は聞いた事があるけれど、それを物理でやっちゃうのはさすがに初めて見たわぁ)
背後でセンドラーがくすくすと笑いをこらえているのがわかる。そっぽを向いているのは、それを見られたくないからだろう。
これじゃあ私、痴女扱いされちゃう。変態なんかじゃないのに……。
恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。
すると子供は私のそばに寄ってきてにっこりと笑い始めた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
そう言って子供はこの場を去っていく。
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