エピローグ
第1話
12月。気温がすっかり下がって、凍えるような寒さの日々が続く頃。
「はい。じゃあホームルームを始めます。今日のホームルームは、特にやることもないし、この後に彼氏とデートする予定なので、ホームルームは終わります」
担任の吉田は相変わらずであった。そんな彼女のスマホが鳴った。着信であった。吉田は生徒の前だというのに、教壇で堂々と通話をし始めた。
「あ、もしもしぃー。たかぴっぴぃー? うんうん。もうすぐ終わるからぁ。えっ……急に行けなくなった? 好きな人が出来たからって……おいちょっと待てよゴラァッ!」
吉田は鬼の形相で、スマホの画面を見た。やがてスンッと凹んだ表情を浮かべた。
「どうせ私を愛してくれる人なんていないんだわ。ねえ瑠華君。私のこと可哀想でしょ? ちょっとでも可哀想だと思うのなら、今日一緒に……って、そうだったわ。瑠華君は休みだったわね。あーあ、やってらんない。あ、ホームルームは終わりね。解散かいさーん」
そんな調子で吉田は出て行った。生徒たちは慣れたように各々、部活なり帰宅なりを始めた。
「篠崎」
自身を呼ぶ声に、篠崎は振り返った。呼んだのはシャロであった。
「知っていたのだろう? 歩世瑠華が、怪盗パンドラだということを」
放課後の教室の喧騒の中、シャロの声は篠崎だけに良く響いた。
篠崎は沈黙した。やがて彼女は深呼吸を一つして、そしてゆっくりシャロのもとへ歩み寄る。
「ああ。知っていたよ」
やがてシャロの隣に来て、篠崎は言った。
「元々、瑠華がパンドラじゃないかって思っていたんだ。そんな時に、シャロが転校してきた。怪盗パンドラを追うセブンアイズが、瑠華と恋人だという。私はそれを聞いた時点で、確信したよ」
はは、と篠崎は笑った。
「君の目的は、ジュエリーを突き止めること、だったのだな」
シャロが尋ねた時。教室の窓ガラスから、飛行機が飛んでいるのが見えた。それを見ていたからか、篠崎の表情はとても険しかった。
「ああ、そうさ。私はこの手で親を殺した。あいつらがそうさせたんだ。だから私が断罪してやるんだ。彼らの矜持もろとも。サファイアを置いた、あの女を。」
篠崎は固く握り拳を握った。
「ご覧の有り様だよ。私はもう既に、復讐心に囚われてしまっている。瑠華の気持ちには気付いていたけれど、応えられそうにない」
篠崎は、ポケットに手を伸ばした。そして一枚のカードを、シャロに差し出した。
「渡そうか迷ったんだ。何だか、イラッとしちゃってね」
シャロはそのカードの内容を見る。
『12月4日放課後。パンドラの箱は開かれた。新たなる怪盗が、忘れ物を取りに参ります』
それは、怪盗パンドラの予告状とフォーマットが同じであった。
「これは……」
「本人から、君に渡すように言われたんだ。はやく行ってきなよ」
「あ、ああ」
シャロは、早歩きで教室を出て行った。それを見届けた篠崎は、少し悲しそうな表情を浮かべる。
「イラッとするなあ。少し嫉妬しちゃったじゃないか」
彼女はそう呟いて、情けなく笑った。
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