第6話

 人が死んだ。さすがに現地に着いて早々に死体を拝むことはないだろうと、そういった心理をここぞとばかりに突いたような出来事であった。


 にも関わらず、参加者の皆は終始落ち着いていた。もちろん、平静ではなかったものの、死体を目の当たりにしたにも関わらず、誰一人としてその場から逃げようとせず、それどころか悲鳴すら上がらなかった。


 そのことが篠崎にとって、最も不気味であった。


「皆さん。死体に近づかないで。また不審な動きをする者がいないか、注意して見張っておいてください。その間に私が、死体を視ます」


 篠崎が全員に指示を出した。


 死体はテーブルの上に仰向けとなっていた。槍は心臓部から貫通しており、しかしテーブルは貫かれていない状態であった。


「神楽坂さん……」


 篠崎は名前を呟いて、昨日の彼女の言葉を思い出す。


――私はどうなっても構わない。たとえ私が死ぬようなことがあっても、それで息子が救われるのであれば。


 果たして、彼女の息子は救われるのだろうか。彼女は、これで本望だろうか。


 そんなことを考えながら、篠崎は死体を視る。


「死因は……絞殺ですね。出血量からして、死んでしばらく時間が経った後に槍を突き刺しています。恐らく、死後6時間ほど経過している」


 篠崎はそして、皆に振り返った。


「皆さん。人が死にました。つまり皆さんに届いている手紙は、冗談ではないということです。この手紙の送り主は、間違いなく皆さんを殺そうとしています。まだ橋は落とされていないかも知れない。引き返すなら、まだ間に合います」


 篠崎が説得するが、しかし誰も引き返す者はいなかった。全員が篠崎から目を逸らしていた。大道だけは違って、篠崎を見て口を開いた。


「篠崎さん。冗談じゃないのであれば、尚更逃げることなんて出来ないよ。犯人が本気なら、俺たちが逃げた場合に罪を暴くというのも本気なのだろう。俺たちが本当に避けたいのは、それだ。たとえ、命を失っても、ね」


 大道は情けなく笑った。その言葉に、篠崎はより一層イライラしたようであった。


 篠崎はテーブルの上に目をやる。そこには、一枚の紙が置かれていた。篠崎はその紙を取って見る。紙には文章が書かれている。

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