第4話
「おい、大丈夫か」
男の声がして、篠崎は目を覚ました。
「おお、良かった。気がついたみたいだ」
目を開けると、男が自分の顔を覗いていた。中年で、無精ひげがよく目立つ顔であった。
篠崎は身体を起こした。すると遠くに、先ほど落とそうとした吊り橋が見えた。さらにその奥には、篠崎が乗ってきた車と、恐らく他の人達の車が見えた。
篠崎の周りには、顔を覗いていた男の他に、男性が4人、女性が2人立っていた。
「俺は
大道と名乗る男性が手を差し伸べる。篠崎はその手を掴んで、立ち上がった。
「ありがとうございます。あの、私は……」
「ああ、分かってる。篠崎瀬奈さんだろう。セブンアイズの」
大道の言葉に、篠崎は少しだけホッとした。面倒臭がりの彼女は、見ず知らずの人に自己紹介をすることさえ面倒であった。さらに言えば、もうすぐ殺人ゲームが行われる中で、自身の潔白を証明するのも、中々に骨が折れそうだと篠崎は思っていた。
それら懸念点の諸々が解消されて、セブンアイズで良かったと篠崎は思ったのであった。
「後ろから犯人と思しき人物に襲われまして」
篠崎が説明すると、その場にいた全員がどよめいた。
「犯人は見たのかい?」
「いえ。ただ、女性の声でした」
篠崎が言うと、残りの女性たちに、男性陣が注目した。
「まあ、しかし。犯人はあの怪盗パンドラだろう? 彼は変装の達人だ。つい先日、彼はそこの篠崎さんに変装したと聞いているし。今は男性に変装をしているかも知れない」
大道が言った。
「はい。それに、ここにいる人たちとは別に、誰かがいる可能性もあります。とりあえず、現地に向かいましょう」
篠崎がそう言って、一行は現地へと進み始めた。
篠崎は振り返って、橋を見つめる。
(あの橋は、落とされるのだろうな)
篠崎は内心でそう思った後に、周囲にいる参加者に目を向けた。
この人たちは全員、神楽坂さんと同じ事情でここに来ている。橋があろうがなかろうが、橋を渡ってきてしまった時点で、この人たちは引き返すことはない。橋を落とすのは、篠崎という異分子によって外からの救援をシャットアウトするため。
(何がクローズドサークルだ。ふざけるな)
篠崎は、固く拳を握る。
(絶対に許さないぞ)
そして、長く続く道の先を睨んだ。その眼光は、もうすぐ見えるだろう殺人ゲームの舞台を射貫いていた。
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