5 杏は陽介と京都を堪能し、その晩二人は結ばれる

 彼に案内されたのは5階建てのワンルームマンションで、その2階が彼の部屋だった。ドアの中に入ると、シングルベッドがまず目に入り、勉強机と大学の教科書の入った本棚があった。中央には食事に使うらしい、こたつ兼用の机が置かれていた。

「殺風景な部屋でしょ!どこでも好きな所に座って。」と言うので、ベッドを背にして腰掛けた。彼が飲み物を用意してくれて、乾いた喉を潤した。汗もかいて気持ち悪かったが、言い出せなかった。

「この部屋には、女の子とか来るんですか?」と遠回しに訊いてみた。

「いや、部屋に来たのは君が初めてだよ!何でそんな事を訊くの?」

 反対に訊かれてしまい、私はうやむやにごまかした。その後はしばらく、高校の思い出話や大学生活の事を話して過ごした。

「京都の女子大生は、可愛い子が多いでしょ?京都弁とかで声を掛けられたら、たまらないですよね。陽介さん、彼女は今いないんですか?」

「だって、君が彼女だから作らないよ!」と言いながら、私のすぐ横に座ってきたので、私は照れ臭くて彼の首にしがみ付いた。彼は唇に軽くキスをして、それから首筋にもキスをして、「いいの?」と耳元でささやいた。私が小さくこっくりとうなずくと、「シャワーを浴びた方がいいかな」と身体を離した。彼はいかにも紳士的で、強引に押し倒して襲われる場面も想定していた自分は、何となく物足りない思いがした。

 当然だが、二人別々にシャワーを浴び、狭いベッドに二人で入った。ベッドの中で愛撫を受けながら、彼から「いいの?」良いのと何遍も訊かれ、その度に私は「うん!」良いのと答えていた。すべてが終わって、時計を見ると夜中の3時を回っていた。私は、昼間の歩き疲れもあって、余韻を楽しむ間もなく、すぐに眠りに落ちていた。

 目覚めたのは朝の9時で、陽介さんは背中を向けてまだ眠っていた。私は全裸の身体を起こし、シャワーに向かった。出て来ると、彼は起きていてこちらを見ていた。私は、「きゃあ!」と言って、その場にうずくまってしまった。

  

 その日は嵐山から嵯峨野に行き、京の風情ある景色を楽しんだ。そして京都駅に戻り、彼との別れを惜しんでいつまでも手をつないでいた。と言っても、私はそれ程寂しさを感じておらず、むしろ彼の方がより寂しそうだった。いよいよお別れとなって、彼は人目もはばからずに私を抱き寄せた。私は恥ずかしくて顔を隠していると、さらにキスまで求めてきたので驚いた。

「あっちに帰ったら、また会おうね!メールするからね!」

 お互いの再会を約束して、私は京都を後にした。

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