4 陽介が卒業して半年後の夏、杏は陽介のいる京都へと向かう

 夏休み、彼とのつらい別れから半年になろうとしている。その間はメールでお互いの近況をやり取りし、さほど寂しさは感じなかった。私は生徒会の仕事や受験勉強に忙しく、夏休みはあっという間にやって来た。

 両親には櫻子と花純3人で、1泊2日で大学を見学に行くと伝えてあった。もちろん、その前に二人には相談していた。

「やったね!杏の行動力に感服するわ。協力するよ。」と櫻子が言った。

「えー!1泊って、どこに泊まるの?柴嵜さんとそういう事なの?」と花純は、大きな目を見開いて驚いていた。私は心に決めていた。そして、京都に向かう新幹線の中で、考えていた。

彼とキスをしたのは通算4回、少ないと思うけど回数の問題ではない。

今日、彼の元に行くという事は、彼を受け入れるという事だ。私には未知

の領域だが、恋愛関係において越えなければならない一線だと思う。それ

ばかりでなく、とかく経験が重視される世の中で、女子にとっては男性経

験があるとかないとか言われ、面倒臭い思いをするのは嫌だ。櫻子は本人

の意思で行動しているが、芹菜や真莉愛、花純まで、女であるがために嫌

な思いをしている。女が男の欲に翻弄されるのはごめんだ。男の勝手で、

嫌な思いをするなら、好きな男性と初めてを経験したい。その先はどうな

るのかは分からないが、処女という厄介なものを早く捨てたいというのが、

私の本心だった。


 京都駅で彼と再会し、その喜びを交わし合い、京都御所や金閣寺など古都を案内してくれた。彼の通う大学にも案内され、京都で学生生活を送っている彼がうらやましかった。駅に預けていた荷物を出し、夕食は錦市場のおばんざいの店で、京都の家庭料理を堪能した。彼と一緒に食べている事が、格別な味わいとなった。食事後は、京極通りから四条通りに掛けて腕を組んで歩いた。片手にはキャリーバッグを引きずりながら、まるで家出少女のようだと思った。昼間は二人とも照れがあって、時々手をつないで歩くぐらいだったが、こうして腕を組んでいる事が信じられなくて、京都の夜の魔法にかかったようだった。四条大橋に差し掛かると、鴨川沿いに多くのカップルが見られた。

「あれは俗に『鴨っぷる』と言って、恋人同士が河川敷に等間隔に座っているので有名になってるんだよ。どう?下へ行ってみようか。」

 彼に付いて河川敷に下りると、こちらが恥ずかしくて目を背けたくなるような光景が広がっていた。私達も空いている場所に肩を並べて座ったが、周りが気になって仕方がなかった。その内に彼がキスをしてきたので、周りが見えなくなり、二人だけの世界に入っていった。

ロマンチックな京都の夜を満喫しているところに、彼が訊ねてきた。

「杏は、今日は何処に泊まるの?送って行くよ。」

 誠実な彼は、狼にはなれないらしい。このまま今日は別れるつもりだ。

「陽介さんの、部屋は駄目ですか?ホテルは取ってないので、泊めて下さい。」

 恥ずかしそうに言うと、彼はやっと気付いたようであわてていた。

「良いけど、僕の部屋は狭いし、布団も一組しかないから…。」

「それでも、部屋に行ってみたい。夏だから、布団はいらないし!」

 私は押しかけ女房状態だと、自分で自分が可笑しかった。四条からバスに乗って、30分ぐらいで着くという。バスの中で彼は無口で、何かを一生懸命考えているようだった。私も外の景色を眺めながら、不安と期待の入り混じった気持ちで無口だった。最寄りの停留所に着き、コンビニに寄って行くというので後を付いて行った。飲み物やお菓子を買ったが、レジで彼が手に隠し持っている物に気付いた。彼もその気でいるんだと思い、恥ずかしさと同時に安心感を抱いていた。

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