第5話 ペナルティ
その日の放課後。
「じゃ、頑張れよ陽介」
「検討を祈るよ、間宮」
一日の日程を全て終わらせ、ようやく学校から解放されるということで各々が教室から散っていく。
今は嫌だ嫌だと言っているこの学校、数年後にはすごく恋しくなるから覚悟しとけよ。
「お前らは部活か?」
俺が言うと、秋人と岡崎はこくりと頷く。
二人は俺と違って部活に入っている。秋人はバスケ部、岡崎は確かコンピューター部だったかな。岡崎に関しては部活で何してるのかも知らないからよく覚えてない。
「お前は先生とのデート、頑張れよ」
笑いながら秋人が言う。
男女が二人で何かすることをデートとするならば、確かにこれはデートだ。しかも好意を持っていれば尚のこと。俺の方は言うまでもないが、先生はどうなのだろうか。
「ついでに先生が処女かどうか聞いといてくれ」
「怒られるわ」
ケタケタと笑いながら、秋人と岡崎は先に教室を出ていった。うちのクラスの奴らは放課後に教室に残って駄弁るということをしない種族のようで、割と早い段階で教室の中は空になる。
「帰るの早いな。早帰宅選手権とか開いたら盛り上がるんじゃないか」
部活に入っている者は部活へ。
そうでない者達は友達とマックにでも行くのだろうか。いいよな、放課後に寄り道なんて青春じゃないか。
「間宮くんは優勝しちゃうんじゃないかな?」
教卓で何やら資料をまとめていた先生が、作業を終えて俺の独り言にツッコんできた。
触れないでくれますかね、自分でも何言ってんだって話だったから。
「いや、そんなことないですよ。俺学校超好きですから」
「そうなの? あんまり、そういう印象ないけど」
「だって学校なら先生と会えるじゃないですか」
「んん?」
俺の言葉に、先生は口角を上げて顔を引きつらせた。ぎょっとした顔をこちらに向けてくる。
「ん?」
なので、とぼける。
「んー、いや、わたしの聞き間違いかな。そうだな、そうだよ。そんなはずないもの」
「何がすか?」
「いやいや、なんでもないよ。それじゃあ間宮くんには、先生のお手伝いしてもらうね」
「ういー」
俺は先生と付き合いたい。
彼氏彼女になりたい。いちゃいちゃしたい。手を繋ぎたいキスもしたいしもっといろんなことがしたい。
あの日のようなことだって……。
だから、先生の気持ちを確かめなくては。
手紙に書いていたあの一言。それを確認するために、俺はどこかのタイミングで告白的なことをしなければならない。
それまでにやるべきことをやっていこう。
仕事と一緒だ。段階を踏んで一つ一つこなしていく。さすれば道は開かれる。
「ついてきて」
「どこ行くんですか?」
「それは、到着するまでナイショだよ。お楽しみにー」
にしし、と子供のような笑みを浮かべて先生は俺の数歩先を歩く。歩いているルートから察するに恐らく職員室だろう。
「ちょっと待っててね」
案の定職員室だった。先生は俺に待てと命じてきたので犬のように職員室前でご主人の帰りを待つ。
「……」
過去を変えれば未来は変わる。
それは当然のことだ。過去に自分が何をしたかを把握している以上、そうでないルートを進めば自然と未来は変わっていく。
俺は先生と放課後にこうして何かをしたことなどない。この時点で既に未来に影響を及ぼし、変化を起こしているはずだ。
あの未来とは違う、別の未来へと向かっていくはずなのだ。
「お待たせ。じゃあ行こっか」
荷物を置き、上着を脱いでカッターシャツ状態になった先生が、まるでデートに遅れてきた時のような台詞と共に戻ってきた。
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