第4話 三馬鹿
「間違いない。先生は処女だよ」
くいっとメガネを上げながら、岡崎宏明が真面目な顔して言う。
おかっぱのような丸い髪とメガネのおかげか優等生に見られがち。事実成績はいいけど、会話するとこんな感じ。
「ソースは?」
それに応えるのは日野坂秋人。茶色に染めた髪をワックスでくしゃっとセットしているリア充オーラ全開な我が級友だ。
「そんなものない」
「ねえのかよ」
岡崎があまりにもきっぱり言うものだから、秋人は肩を落とす。
「なら、何を根拠に言ったんだ?」
思わず俺も口を挟む。
「んー、まあ強いて言うなら男の勘ってやつかな」
「……得意の情報要素皆無なのかよ」
「おお、何だ間宮。ついに僕の情報通キャラを認めてくれたのか?」
「いや認めてないけど。ロクな情報公開したことないだろ。じゃなくて、逆に認めさせようとしろよってことだよ」
「情報通キャラはそう簡単に有益な情報は漏らさないのさ。これ鉄則な」
なんて、身にもならない為にもならないくだらない話をする暖かな春の日の朝。
四月ということもあってか、まだ春休みボケで皆が浮かれている。それとも、新しいクラス特有の慣れない空気に戸惑っているのかもしれない。
このクラス、二年三組としての一年が始まってもう一週間経つが、慣れないものは慣れない。
まして仲の良かった友達と離れてしまうとよりいっそう不安も感じるだろうし、馴染むのに時間を要するだろう。
その点、俺は去年同じクラスだった秋人と岡崎と同じクラスだったのは当時の俺からしても大きい。
いろんな行事を経て仲良くなった奴らもいるけど、当然今は無関係な状態だ。関係の構築をいそぐ事もないだろう。
それよりも先に、俺にはするべきことがあるからな。
「はいはーい、チャイムは鳴ってますよー? みなさん早く着席してください」
パンパンと手を叩きながら教室に入ってきたのは結城恭子先生その人。我らが担任教師であり、そして俺の想い人だ。
「ホームルーム始めますよ」
先生は基本的にスーツだ。
白のシャツの上から上着を羽織り、下はタイトスカート。タイツで足の露出を抑得ている。スタイルがいいので、体のラインが服を通してもよく分かる。
思い返すと先生と話すようになったのはいつ頃だったろうか。
思い返しても中々思い出せない。時系列的には去年なんだけど、記憶的には八年近く前なのだから。こういうところが不便だったりする。
確か一年の後半辺りだったかな。
図書室によくいるのを見かけて、話すようになって、図書室によく足を運ぶようになったんだ。
何気ない会話を繰り返して、そして気づけば心惹かれていた。
「聞いてますか、間宮くん?」
「え?」
ぼーっとしていたのがバレたようで、急に話を振られてしまう。当然聞いていなかった。
「いや、えっと」
「だめだよ。先生の言うことはちゃんと聞かないと」
「はい」
怒られてしまった。
といっても声色は優しく、そこに怒気は感じられないので言葉上の注意ということは分かる。注意されていることは最もなので気をつけなければいけないが。
人の話を聞く。
社会に出れば、それはすごく大切なことだと改めて思わされた。
「バツとして、放課後先生のお手伝いをしてもらいます」
「まじっすか」
知ってるかい、先生。
それはペナルティになってないんだぜ?
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