第2話 間宮陽介のタイムリープ【破】
間宮陽介、二四歳。
現在、社会人六年目である。
高校を卒業してから今の会社に就職し、何度も辞めようと思いながらも未だに社畜として使われ続けていた。
「……もうこんな時間か」
オフィスの時計で時刻を確認すると夜の一一時を回った頃。周りを見ても残っているのは俺くらいだった。
一〇時くらいまではちらほら人も見えたのだが、さすがにこの時間まで居残っている強者はいないらしい。
別に帰ってはいけないわけではない。
ただ、翌日に仕事が回るだけ。
そして厄介なのは一日に与えられる仕事量が明らかに一日で終わらせるような内容ではないということ。つまり、残業するか滞納するかを強要させられている。
月末までに全ての仕事を終わらせていれば何も言われないが、もしも仕事を終えていなければそのペナルティは恐ろしいものだ。俺も何度も味わっている。
何度も味わった結果、こうしてたまに残業して仕事を終わらせるというやり方が一番無難であることを導き出した。
「帰ろ」
スーツの上着と荷物を詰めたカバンを持ってオフィスを出る。
外は冷たい空気が張り詰めていて、寒風が吹きすさぶと全身が凍りついてしまうと思えてくる。
一二月。
季節は年末、クリスマスを間近に控えているためか街は明るく賑やかである。といっても、この時間になるとさすがに落ち着いているけれど。
吐いた息は白く、風と混じって消えていく。
ヴヴヴ。
ポケットの中でスマホが震える。
とりあえず駅のホームまでは歩き、電車を待つ時間でようやくスマホを開く。
高校時代の友達からだった。
たまに連絡を取り合う仲ではあるが、最近はご無沙汰だった。
何事かと思い、メッセージを開く。
『おっす、陽介。今度ニノサンで飲み会開こうぜってことになったから日にち空けといてな。今度の土曜、よろしくー』
何ともまあ軽いメッセージだった。
どういう経緯でそんな話になったのかは分からないけど、つまり同窓会ということか。卒業してからおよそ六年、会っていない人なんて大勢いるのでこれは是非とも行きたい。
『了解』
短く打って返信する。
ちなみに、ニノサンというのは二年三組という意味だ。高校生活三年間を振り返っても、一番楽しかった時期と言える。
楽しみだな。
* * *
そして当日。
一軒目の居酒屋にて思い出話に花を咲かせる。
もちろん仲のいいグループはあるので各々話す時間というのはあるが、せっかくの機会ということもあってあまり話さなかった奴とも話す。
そんな感じでがっつり盛り上がった一軒目を後にして二軒目に突入。
翌日が仕事という人、あるいは家庭だなんだと理由がある人が帰っていった。
「お前はいいのかよ、奥さん怒んね?」
二軒目への道すがら、連絡をくれた友達、日野坂秋人が声をかけてくる。
「ああ、心配いらない。既に何件か連絡入ってるけど全スルーしてるから」
「心配大アリだろ。それ怒られるんじゃねえの?」
「帰ったらな。どうせ怒られるなら後でひっくるめて怒られることにした」
言って、俺はニッと笑う。
「お前の奥さんってあれだろ、木島だろ? あいつ昔から怒ると怖かったから、実はちょっと苦手だぜ」
「安心しろ、あいつもお前のこと苦手って言ってたから」
「いやそれ何も安心できねえ!」
楽しい時間くらい、鬼嫁のことなど忘れ去りたいのだ。
俺は高校三年の時に出会い、付き合った木島早紀とそのままゴールイン。尻に敷かれながら、それなりの毎日を過ごしている。
夫婦円満、とは言えないと思うけど。
「かんぱーい!」
そして二軒目。
ある程度人数が減ったことで盛り上がりはそこそこに近況報告会となる。
たまに会っている奴のことは嫌と言うほど聞かされているので知っているが、やはり久しぶりに会う奴の話は新鮮で面白い。
意外な仕事についた奴もいれば、夢を叶えた奴もいる。皆すべからく、弛まぬ努力を続けたのだろう。
俺とは大違いだった。
こんな言い方は良くないのだろうけれど、成功か失敗か、その二択で言えば成功した人間の方が多く思えた。
俺は、たぶんだけど成功ではないのだと思う。
いい感じに皆が出来上がった頃、店のドアが開き懐かしい声が届いてきた。
「やっほー! みんな元気にしてた? まさかわたしも誘ってもらえるなんて、感謝感激雨あられだよー」
いつかの記憶と寸分違わぬ調子と容姿を携えて、結城恭子が満を持して登場した。
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