《 第25話 ギルド通いは終わらない 》
翌日。
日が昇って間もない頃、僕たちは列車乗り場を訪れた。
今日はいよいよマリンちゃんの旅立ちの日だ。
「王都は楽しかったかしら?」
「ドラミちゃんとジェイドくんのおかげで、すっごく楽しめたです!」
「ドラミも楽しかったのだ~!」
「僕もだよ。またマリンちゃんに会える日を楽しみにしてるからね」
「はいです! お家に帰ってからもクエストを受けて、いつか十つ花になってみせるです! そのときは一緒にクエストを攻略してほしいです!」
「もちろん! その日が来るのを楽しみにしてるよ!」
「マリンならぜったいになれるのだ!」
「ありがとうですっ! ……お姉ちゃんも、応援してくれるです?」
不安げなマリンちゃんに、ガーネットさんが微笑を向ける。
「可愛い妹の夢だもの。応援するわ」
「お姉ちゃん……」
「だけど、ちゃんと家に帰ると約束してほしいわ」
「約束するです! どんなクエストを受けても、必ず家に帰るです!」
マリンちゃんが力強く宣言すると、駅員が近づいてきた。
「そろそろ出発ですよ」と呼びかけられ、マリンちゃんは寂しげな顔をする。
「いよいよお別れです……」
「これをドラミだと思って、受け取ってほしいのだ」
ドラミはマリンちゃんに小石を渡した。
青い光を放つ、本当に綺麗な小石だった。
「す、すごく綺麗です……」
「ドラミが見つけてきたなかで、一番綺麗な小石なのだ!」
「もらってもいいのです?」
「いいのだ。そのかわり、冒険をして、それより綺麗な小石を見つけたら、ドラミに譲ってほしいのだ!」
「あげるですっ! 綺麗な小石、見つけてやるです~!」
「楽しみなのだ~!」
がっしりと握手をして友情を再確認すると、マリンちゃんは列車に乗りこむ。
列車がゆっくりと動きだすなか、窓から顔を出し、僕たちに手を振ってきた。
ドラミも力強く手を振り返す。
「さよならなのだ~!」
「さよならです~!」
遠のいていく列車を、ドラミは手を振りながら見送る。
そして列車が見えなくなると、その場に膝をついてしまう。
地べたをドンドンと叩きながら、
「うおおお! 悲しいのだあああああああ!」
「ちゃんと笑顔でお別れできて偉いね」
「だって泣いたらマリンを困らせちゃうのだあああああ! ほんとはずっと泣きそうだったのだあああ!」
「美味しい店につれてってあげるから、元気出して」
「ううっ……泣かないように唇を噛みしめてたから、ヒリヒリするのだ……味付けが濃いものだと、傷に障りそうなのだ……」
「薄味の美味しい料理を食べさせてあげるからさ」
「ううっ……またマリンと食べたいのだ……」
「だったら会いに行くといいわ」
「ええ!? 会いに行ってもいいのだ!?」
「もちろんよ。休みが取れたら、ふたりを実家に招待するわ」
「やったのだー! また会えるのだ~!」
「僕もいいんですか!?」
「歓迎するわ」
やったー! ガーネットさんの実家に行けるぞ!
これでもっとガーネットさんと親しくなれる!
そうと決まればさっそく準備しないとね!
最高のお土産を手に入れて、立派な恋人だっておばさんにアピールするんだ!
「マリンに会ったときのために、綺麗な小石を見つけてやるのだっ。早く旅がしたいのだ!」
「僕もだよ! 国中を……ううん、どうせなら世界中を巡ってやろう!」
「さんせーなのだ! 世界中を旅すれば、珍しくて綺麗な小石が山ほど手に入りそうなのだ!」
「……ふたりとも遠くへ行くのかしら?」
「はいっ! 世界中を巡って最高のお土産を手に入れたいですし、ガーネットさんのお父さんも探したいですから!」
「そう……」
あれ? 思ってた反応と違う。
てっきり喜んでくれると思ってたんだけど……
「……もしかして、よけいな気遣いでした?」
ガーネットさんは、ふるふると首を横に振り、
「あなたの気持ちは本当に嬉しいわ。だけど……会えなくなるのは寂しいわ」
「僕もガーネットさんに会えないのは寂しいですよっ! だから当然、ギルド通いは続けます!」
クエストを受け、クリアして、数日の旅を挟み、18番窓口へ――。
そんな日々を繰り返せば、いずれは世界中を見てまわれる。
どこかで旅をしているはずのオニキスさんとも、そのうち会うことができるはず。
「どんなクエストを受けても、週に一度は帰るようにしますっ! じゃないと、僕のほうこそ寂しくて死んじゃいますからね」
「だけど、あなたの負担が大きすぎるんじゃないかしら? それに……ギルドに通わなくても、私に会うことはできるわ」
たしかに僕とガーネットさんは恋人同士。窓口越しじゃなくたって、おしゃべりを楽しむことはできる。
恋人に会いたいだけなら、通うべきはギルドじゃなくてガーネットさん宅だ。
クエストを受けず、ただ旅をするだけなら、ガーネットさんの言う通り僕の負担はかなり減る。
だとしても、僕はギルド通いを続ける。
冒険者という職業に執着しているわけじゃない。
魔獣とのスリリングな戦いを望んでいるわけじゃない。
さらなる功績を上げ、いま以上の英雄になりたいわけじゃない。
僕がギルド通いを続けるのは、もっと単純な理由――
「僕、ガーネットさんの働いてる姿を見るのが好きなんです! だってめちゃくちゃ可愛いですから! はじめて見たときは天使だと思いましたよ! あっ、もちろん、いまも天使みたいに可愛いですけどね!」
想いを告げると、ガーネットさんの頬が赤らんだ。
嬉しそうに頬を緩めつつ、気遣うような口調で、
「旅の途中で倒れないように、しっかり食べて体力をつけたほうがいいわ」
「はいっ! もしよかったら、今日もご飯を作ってほしいです! ガーネットさんの手料理、信じられないくらい美味しかったですから!」
「旅立つふたりのために、愛情をこめてご馳走を作るわ」
「嬉しいです! 今夜が待ち遠しいですっ!」
「ドラミも楽しみなのだ! ――うぅ、ご飯の話を聞いてたらますますお腹が空いてきたのだ。早くご飯を食べに行きたいのだ」
「だね。これから食事に行きますけど、よかったらガーネットさんもどうですか?」
「行くわ。ギルドが開くまで、もうちょっと時間があるもの」
「決まりなのだ~! さっそく食べに行くのだ~!」
そうして涼しい風が吹き抜けるなか、僕たちはどの店に行こうかと相談しながら、列車乗り場をあとにしたのだった。
【【【【 あとがき 】】】】
ジェイドくんとドラミちゃんの旅はまだまだ続きますが、
ガーネットさんと結ばれるという物語の目的は無事に果たすことができましたので、これにて一区切りとさせていただきます。
自分をほっこりさせたくて書き始めた趣味小説ですので
そんなには読まれないだろうと思っていたのですが、
多くの読者様に恵まれ、たいへん嬉しく思います。
皆様に少しでもほっこりしていただけたなら幸いです。
それでは最後まで読んでいただき、まことにありがとうございました。
【 追記(2021/12/24) 】
アフターストーリーができましたので、連載を再開致します。
引き続きお楽しみいただけますと幸いです。
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