《 第23話 友達の証 》

 マリンちゃんの討伐対象はスライムだ。


 てっきり王都の近くをうろついてると思ってた。


 だけど……



「ドラミー! マリンちゃーん!」



 ふたりの姿は見当たらなかった。


 スライムがなかなか見つからず、遠くへ行ってしまったのかも。


 僕はふたりの声を聞き逃さないように耳を澄ませつつ、街道を走っていく。


 しばらく走っていると、遠くのほうにうっすらと光が見えた。



「あれって……」



 ドラミがドラゴンの姿に戻ったときの光と似ている。


 僕は脚力をさらに強化すると、ドンッと地を蹴って疾駆した。びゅわっと草むらを駆け抜け、森に入る。


 そこには、ホワイトドラゴンがいた。



「ドラミ!」



 急いで駆け寄ると、洞穴からマリンちゃんが出てきた。


 僕を見るなり、マリンちゃんは安心したようにぺたんと座りこんでしまう。



「よかった! 無事だったんだね!」


「ご、ごめんなさいです……夕方なのにクエスト受けてごめんなさいです……」



 ぽろぽろと涙を流すマリンちゃん。


 服は泥だらけだけど、怪我はないみたい。



「謝らないで。怒ってないから。ほんと、無事でなによりだよ。このあたりは魔獣が多いから、急いで帰ろう」


「魔獣、いたです……」


『……グア』



 魔獣の姿を晒したドラミが、悲しげな声を漏らす。


 マリンちゃんの顔を見るのが怖いのか、うつむいてしまっている。


 だけど――



「さっきウィングベアに襲われて、死にそうになったです……だけどドラミちゃんが助けてくれたです……」


『……グア?』



 ドラミが、こっちを見る。


 表情は読み取れないけど、なんだか戸惑ってるみたい。


 きっとマリンちゃんに怖がられていると思ってたんだろう。


 だけど、それはドラミの思い違いみたいで――



「あっ、そうです!」



 マリンちゃんは洞穴に戻り、服を取り出す。


 それをドラミに差し出して、



「早くこれを着るですよ。裸じゃ風邪を引いちゃうです」


『ガア……』


「……どうしたです? もしかして、もう人間に戻れないですか?」


『ガアア』



 ぶんぶんと首を振り、ためらうような間のあと、ドラミは光に包まれた。


 眩い光に目を瞑り――目を開けたとき、見慣れたドラミの姿があった。


 ドラミはマリンちゃんから目を逸らして、おずおずと言う。



「……ドラミのこと、怖くないのだ?」


「どうしてです?」


「だって、ドラミ……ほんとは魔獣なのだ。すっごく強いドラゴンなのだ」


「たしかにびっくりしたですけど、全然怖くないですよ! だって、ドラミちゃんはドラミちゃんです! 魔獣かどうかは関係ないです!」


「……ドラミたち、友達なのだ?」


「当たり前です! ほらっ、友達の証です!」



 マリンちゃんにポーチとヘアピンを差し出され、ドラミは満面の笑みになる。


 ポーチとヘアピンを受け取ると、裸のまま装着した。



「友達の証なのだ!」


「よかったね、ドラミ」


「よかったのだ!」


「じゃあ服を着て帰ろっか」


「帰るのだ~! ……あっ、でもどうしてジェイドがいるのだ?」


「そ、そうです! 今頃お姉ちゃんとダンスしてるはずじゃ……」


「ふたりがいなくなってたから、探しに来たんだ。ほんと見つかって安心したよ」



 僕の言葉に、ドラミとマリンちゃんがしゅんとした。


 気にしなくていいのに……。



「ごめんなさいなのだ……大好きなガーネットとダンスできるせっかくの機会だったのに、ドラミがめちゃくちゃにしてしまったのだ……」


「違うです。わたしのせいです……お姉ちゃん、ジェイドくんとのダンスを楽しみにしてたのに、わたしのせいで……」


「違うのだ。ドラミのせいなのだ。ジェイドはめちゃくちゃダンスを楽しみにしてたのに、ドラミが邪魔しちゃったのだ……本当にごめんなさいなのだ……」


「本当にごめんなさいです……」


「気にしなくていいってば。それより早く帰ろうよ。無事な姿を見せて、ガーネットさんを安心させなくちゃ!」



 ふたりの罪悪感を消し飛ばそうと、僕は明るい声を張り上げる。


 うなずいたふたりだったが、へとへとで歩けないようだ。


 僕はマリンちゃんをおんぶして、ドラミをだっこすると、早歩きで王都へ戻ったのだった。


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