《 第20話 初クエスト 》
国王様の生誕祭が明日に迫り、僕の心臓は高鳴っていた。
明日になればガーネットさんと手を繋ぎ、踊ることができるのだ!
ものすごく緊張するけど、それ以上に楽しみだ。
念願のダンス。最高のコンディションで臨まないとね!
パーティは夜からだけど明日は朝からやることがある。今日は早めに寝ようかな。
そんなわけでベッドにもぐりこみ――ふと気づく。
しまった! 明日の衣装、まだ決めてない!
「ちょっと衣装ルームに行ってくるね」
「そのパジャマ、カッコイイのだ。特に胸元の刺繍がドラミ好みなのだ」
「パジャマに不満はないよ。パーティで着る衣装を決めるの忘れてたんだ」
「ドラミも決めるの手伝ってやるのだ!」
「ありがと。助かるよ!」
女子の意見を参考に衣装を選べば、ガーネットさんのハートを掴めるかも!
ファッションショーの開催が決まり、僕たちは寝室を出た。
ドラミを廊下に待たせ、僕は三つ目の衣装ルームへ。
一つ目と二つ目はガーネットさんの服しかないが、ここには僕の服もある。
「まずは……これにしようかな」
ささっと着替えると、廊下に出る。
するとドラミは、眩しそうに目を細めた。
「服がテカテカしてるのだ……」
「そういう素材だからね。……ちょっと派手かな?」
「派手というか、眩しいのだ……」
それは困るな。
パーティ会場は廊下より明るいはず。
廊下で眩しいってことは、パーティ会場では僕は光り輝いて見えるはず。
ダンス中に眩しい思いをさせると怪我に繋がってしまうし……
「ほかのにするよ」
ドラミを廊下に待たせて、僕は次の衣装に着替える。
廊下に出ると、ドラミはしっかりと僕を見つめてくれた。
よしっ。とりあえず眩しくはないみたいだ。
「これはどう? さっきのと違って、光を反射しない素材だよ」
「全身黒ずくめなのだ……」
「夜間戦闘用の衣装だもん。これなら暗がりのなか、魔獣に気づかれずに接近できるってわけ。……ちょっと地味かな?」
「地味というか、暗すぎるのだ……」
それは困るな。
廊下で暗すぎるってことは、外だと完全に闇と同化する。
この格好だと、帰り道でガーネットさんに見失われてしまうかも。
「ほかのにするよ」
ドラミを廊下に待たせて、僕は次の衣装に着替える。
白シャツに黒い上着を羽織り、下は黒いズボンだ。
その格好で廊下に出ると、ドラミはぐっと親指を立てた。
「それがいいのだ!」
「ほんとに? ちょっと地味じゃない?」
「それくらいの地味さがちょうどいいのだ。その格好が一番躍りやすそうなのだ!」
ドラミに太鼓判を押され、自信が出てきた。
よしっ! 明日はこの服で行くぞ!
かっこよくダンスして、ガーネットさんのハートを掴んでやる!
「眠いのに付き合ってくれてありがとね」
「持ちつ持たれつなのだ。上手に踊れるように祈ってるのだ!」
ドラミはパーティには参加しない。
僕から国王様に頼もうかと提案したら、断られてしまったのだ。
「ドラミも明日は楽しんでね」
「うむ。マリンと最後の1日を楽しむのだ!」
はじめてのクエストは王都で受けたい――!
その一心で実家を飛び出したマリンちゃんは、明後日に故郷へ帰ってしまう。
明日、ついにマリンちゃんは12歳になり、冒険者の資格を得るのだ。
心配なので僕とドラミも同伴するけど、僕が一緒にいられるのは夕方まで。
日が暮れたら僕はガーネットさんと城へ行き、ドラミはマリンちゃんと家で楽しく過ごす予定だ。
明日を楽しみにしつつ、僕はパジャマに着替えてベッドにもぐりこむのだった。
◆
翌日。
マリンちゃんが我が家に来たのは、昼食の片づけを済ませた頃だった。
ミスリルの盾と、魔石を入れる用のポーチ。冒険者の装いながらも、髪には寝癖がついている。
きっと寝起き早々に家を飛び出したのだろう。
「ご、ごめんなさいです! 寝坊しちゃったです!」
「昨日は夜更かししたのだ?」
「ベッドには早めに入ったですけど……ドキドキしちゃって、なかなか寝つけなかったです……」
しゅんとするマリンちゃんに、ドラミがにっこりとほほ笑みかける。
「気にしなくていいのだ。それより、ご飯はちゃんと食べたのだ?」
「食べてないです」
「食べないとだめなのだ。お腹を空かせたままだと力を発揮できないのだ」
「でも遅れちゃってるです……」
本来なら朝日が昇ってすぐにギルドに行く予定だったもんね。
ガーネットさんもちゃんと起こしたんだろうけど、二度寝しちゃったんだろうな。
「ドラミたちはマリンに付き添うだけなのだ」
「そうそう。今日の主役はマリンちゃんなんだから、僕らのことは気にしなくていいんだよ」
僕たちの励ましに、マリンちゃんは安心したみたい。
食べてくるです、と声を弾ませ、家に帰っていき――
それからしばらくして、お腹いっぱいになったマリンちゃんとギルドへ向かう。
「いよいよ冒険者デビューです……!」
「マリンの勇姿を見届けるのだ!」
「頑張って魔獣と戦うです!」
「まずい、と思ったらドラミたちを頼るといいのだ~!」
「ふたりが一緒だと心強いです~!」
仲良さそうにおしゃべりをしつつ歩いていき、ギルドに到着。
いつもは外で待たせてるけど、今日はドラミもついてくる。
「す、すみませーん! 冒険者になりに来たです……!」
マリンちゃんは緊張の面持ちでカウンターへと向かう。
職員に登録料を支払い、必要事項を記入すると、カウンターに水晶玉が出される。
マリンちゃんは水晶玉に手を触れ――
手の甲に、花紋が浮かび上がった。
「こ、これって……」
「強化系ですね」
「や、やったです! 強化系になれたですー!」
「おめでとうなのだ!」
「ありがとです! ここから始まるのです、マリンの冒険譚が――!」
「さっそくクエストだね」
「はいです! ええと、お姉ちゃんは……」
「いつも18番窓口にいるよ」
「ではクエストを受けてくるです!」
マリンちゃんはダッシュで窓口へ行き、受付を済ませるとダッシュで戻ってくる。
「なにを受けたのだ?」
「スライムの討伐です! さっそく行くです~!」
僕たちはギルドを出て、大通りを歩き、正門を抜けて街道に出る。
街道に沿って歩きつつ、目を光らせて草むらを眺める。
「なかなか見つからないです……」
「あっちにいそうな気配がするのだ!」
「そっちに行ってみるです!」
ふたりのあとを追いかけて草むらに入り、スライムを探すことしばし。
ぷるぷるとした生き物を発見する。
「と、とうとう見つけたです。あれがスライムですか……」
「ゼリーみたいで美味しそうなのだ……」
「あっ! 逃げたです!」
ぽいん、ぽいん、と跳ねながら逃げていくスライム。
ドラミの正体を見抜き、捕食されまいとしているのかも。
「待つですー!」
マリンちゃんは勇ましく追いかける。
相手がマリンちゃんひとりだとわかると、スライムも応戦の構えを見せた。
「かかってくるです!」
盾を構え、短剣を抜く。
スライムの体当たりをひらりと避け、短剣をスライムに叩きつけた。
ぶよんっ!
「くっ! 跳ね返されたです! だったら――強化です!」
腕力を強化したっぽいが、やはりスライムに跳ね返される。
斬るより突くほうが効果的だが、自分で気づかせないと成長に繋がらない。
弱い魔獣を相手に戦闘センスを鍛えないと、後々苦労するのはマリンちゃんだ。
「頑張るのだ! 頑張るのだー!」
ドラミのエールを力に変えて、マリンちゃんは戦い続ける。
何度も何度も短剣を弾かれ、マリンちゃんはその場に膝をついてしまう。
地面に短剣を刺し、肩で息をして――
ふと、短剣を見る。
たいして力をこめてないのに地面に刺さった短剣を見て、閃いたようだ。
「てい!」
立ち上がるなり、スライムに短剣を突き刺した。
するとスライムはぶくぶくと泡立ち、うっすらと黒い煙が発生する。
討伐成功だ! マリンちゃんは魔石を拾い上げ、満面の笑みになる。
「や、やったです! 倒したです!」
「おめでと!」
「おめでとうなのだ!」
「ありがとうです! かなりの強敵だったです……!」
「きっと名のあるスライムなのだ……!」
「魔石に傷もついてないし、マリンちゃんも怪我してないし、大成功だね」
「ふたりが見ててくれたおかげですっ! さっそくギルドに持っていくです~!」
魔石をポーチに入れ、ドラミと手を繋ぎ、うきうきと王都へ引き返す。
ギルドにたどりつき、換金を済ませる頃には、夕方になっていた。
「次はなにを受けたのだっ?」
「なにも受けなかったです」
「どうしてなのだ? だって、まだ夕方なのだ」
「お姉ちゃんに『夕方は受けちゃだめ』って言われてるです……」
暗がりのなか出歩けば『気づけば魔獣に取り囲まれていた』なんてこともありえるもんね。
それを避けるため、マリンちゃんに釘を刺しておいたのだろう。
僕たちが一緒なら危険はないけど、今日はこのあと予定がある。
マリンちゃんはもっとクエストを受けたそうにしてたけど……
「この報酬でお菓子を買って帰るです! ドラミちゃんにはぺろぺろキャンディーを買ってあげるです~!」
「やったー! ありがとなのだ~!」
ガーネットさんの言いつけを守ることにしたみたいだ。
僕たちはキャンディーを買って、家に引き返すのだった。
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