014  お茶の間のTVに異世界からの中継が映ります



兄はわたしがこちらに残ることを納得したあと、細かい注意事項や生活指導、警戒すべきことなどを延々と並べ立てている。

お兄ちゃんったら心配性なんだから☆ …なーんて、笑い流せるレベルじゃない。


長い、うざい、暑苦しい…。

わたしは三分で飽きた。


わたしには政府要人並の警護が必要だと思っているのかもしれない。


一応『聖ラファエラ』という超お嬢様学校に通ってはいるけれど、わたしはホンモノのお嬢様じゃないし、我が家にある金目のものって言ったら、おじいちゃんとお父さんが作った御刀ぐらいしかない。


日本刀を専門に狙う泥棒がいないとは言わないけど…ちゃんとセ○ムと契約してるし、保険もかかってるんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思う。


旅行中の両親も、五日後には帰ってくるんだし。

それまでの間一人でお留守番するくらい、全然問題ないのに。



「…優奈、ちゃんと俺の話を聞いているのか?」


「うん。

ちゃんと聞いてるよ、お兄ちゃん」


笑顔と最強呪文の『お兄ちゃん』で優人の口を封じたわたしは、エリオットがTVの前に立って何かをしていることに気がついた。


よし、兄が悶えている隙にエリオットのところに逃げよう。



「エリオット、何してるの?

TVを見てみたいなら、電源を入れないと映らないよ?」


戦略的撤退をしてきたわたしが話しかけると、エリオットはパッと顔を輝かせた。


「そうでした、TVの動力源は電気でしたね。

先ほどユートに教えていただいたばかりなのに、ついクセで魔力を流して起動しようとしてました」


「…。」


「電気の流れを感知するのと同時に、術式を起動するようにできれば…」


小声で独り言を呟いているエリオットの目には、TVしか映っていないようだった。

真剣な表情で薄型液晶TVを触っている彼の姿をぼんやり眺めているうちに、腕輪が光っていることに気がつく。


さっきの色とは違う。


おばあちゃんのフライパンと腕輪がくっついたときは、白金のキラキラが見えたけど、今見えているのは薄紫色のキラキラだった。


んー…、じっくり見ても、薄紫色のキラキラだけしか出てない。

どうしてさっきと色が違うのか訊いてみたいけど、エリオットの考え事の邪魔をするのも悪いし。


わたしは兄にも同じように視えているのか確認しようと後ろをふり返って……見なければよかったと後悔した。


ああ、本当に、見て見ぬフリをしたい。

でも、おばあちゃんの故郷で変態っぷりを暴露されるのは、問題がある…ような気がする。

我が家の名誉(?)のために、ここはわたしが頑張るしかないか。



兄は台所のテーブルの上にアルバムを広げ、にやにや笑いながら熱心に写真を眺めている。

わたしは内心うんざりとしながら声をかけた。


「あっちの世界に、写真を持っていくつもりなの?」


「ああ。

あちらには、まだ婆さまの友達がたくさん居そうだしな。

婆さまのことを心配してくれていた人たちに、婆さまが元気な頃の写真を見せてあげたら、きっと喜ぶだろう?」


「…そう。

それはご立派な理由だけど、今、優人が見ているアルバムは、わたしの・・・・写真しか入ってないアルバムだよね?」


「…。」


ピタリと動きを止めた兄の手から自分のアルバムを取りあげて、代わりに家族の記念写真用のアルバムを広げた。


「――これなんかどうかな?」


わたしが候補として指で示したのは、家族で町内のお祭りに出かけたときの写真だった。

全員浴衣を着ていて、背景にはお神輿や提灯が写っている。

写真の中のわたしはまだ二歳くらいで、おばあちゃんの腕の中で笑っていた。


「あとは…おばあちゃんとおじいちゃんがもっと若い頃の写真と、娘であるお母さんの写真があれば、十分なんじゃない?」


わたしの目の届かない異世界ところで、兄がわたしの写真に頬づりしたり、わたしの写真に語りかけたりなんてしている姿を目撃されないようにするためには、写真を持って行かせなければいい。


そう思っての発言だったのに、兄はさっくりと拒否した。


「優奈の写真も持っていく」


「…。」


あー、もう!

自覚のある変態シスコンに自制を促すのって、どうやればいいのかなぁ…。


思わず遠い目になったわたしの耳に、エリオットの柔らかい声が届いた。


「生きて動いているユーナが見れるのですから、写真は必要ないんじゃないですか?」


「「…?」」


「さっきユートに見せてもらった『にゅうす』を参考にして、TVに術式を組みこんでみました。

異世界あちらでのユートの様子もこちらへお伝えするために、映像と音声の送受信を可能にしてあります。

『なまちゅーけー』もできますから、会話も可能です。

だから、ユーナの写真を持っていかなくても大丈夫ですよ」


僕の目と耳を通さなくちゃいけないので立会いが必要ですけどね…と、誇らしげに説明するエリオットの頭を、兄は満面の笑顔で撫でまわしている。


「…。」


なんかすごいことをサクっと実現されちゃったけど、フツーのTVとしての機能は無事なのかなぁ…?


無事だといいな、買い替えるのはお金がかかるし。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る