ハクギンドウの回
「もしもし、びっくりしたでしょ。親戚の人が何回呼んでも出てこないから、置いた。って、こっちにも連絡があったよ。ソーメンを炒めたのがソーメンチャンプル。チジミみたいなものがヒラヤーチー。覚えておいてね。ドラゴンフルーツは知らないけど、たぶん親戚のはずよ。じゃあ、週末にね」
放心していたらスマホに着信があった。本当にびっくりした。条件反射で出たら嫁からだった。
いきなり親戚の人だといわれても、こちらにも準備がいる。どこの誰かもわからに輩に食べられるかわからないものを貰う。相手としてもどこの誰かもわからない輩に食べ物を送るなんて正気とは思えない。
旨を伝えてみたがスタンダードとあしらわれた。これが人柄だとか。
私は永住するために沖縄県糸満市に引っ越してきた。理由は嫁が沖縄だから。
午前中の便で那覇空港到着。レンタカーを借りて、不動産屋でカギを預かり、ライフラインの確保に頑張った。
しかし、寝てしまい、他人からの襲撃(親切)を受け、その原因が身内(嫁)だと知り、今に至る。知らない土地に一人で送り込まれ、何の情報も与えられず、丸腰のまま襲撃を受ける。心臓に悪い。この室内にいること自体、おぞましい。そして、週末まで4日もある。
私は、この現実から逃げるようにドライブに出にでた。
海沿いの道をひたすら走る。知らない土地の運転は新しい発見があり楽しい。熱海に似ているなとか伊豆だなとか考えていると観光スポットの看板がいくつか見えてくる。ガラス村。喜屋武岬。斎場御嶽。久高島フェリー乗り場。
簡単に南部を回れてしまった。ヤバイな。このペースで沖縄本島を回り続けていたら、一日で一周してしまう。その先の永住は楽しみがなくなり地獄と化してしまう。
私は来た道をゆっくり戻ることにした。そして考えた。
今は国道だけを走ったからこんなにも早く走れたのかもしれない。県道、市道、農道を通ればもっとほかの発見があるかもしれない。るるぶやコトリップに乗っているようなまだ見たことのない新しいスポットを発見できるかもしれない。
また糸満市の見覚えのある所に戻ってきた。そのまま県道に入った。二車線が一車線になり急に運転がしずらくなった。道ギリギリまでコンクリートの建物が迫っていて圧迫感がすごい。車の速度も落とさざるを得ない。緊張して運転していると少し開けたところに着いた。
ハクギンドウ。観光スポットなのかわからないけど、周りとは少し異質の感じがしたから見学することにした。
昭和天皇が来たとき、隣接するハクギン病院から天皇に向けて火炎瓶が投げられた。スマホの説明の最初はハクギン病院の過激な事件から始まっていた。事件として取り上げられていて、ひめゆりの塔でも同じ事件を未然に防いだみたいなことが書いてあった。ハクギンドウについてはほとんど何も書いてなかった。起源や歴史もうやむやだった。漁師が漁に出た後無事に戻どれるように。みたいなことが後付的に載っている程度った。
神社みたいな作りのハクギンドウの周りを一周した。裏には、しめ縄がまかれた大きな石があった。石の右端には扉があった。
何気なく扉を見ていると中から人が出てきた。見覚えのあるおじさんだった。お互いに会釈した。
「やっぱり来たか。待っていたよ」
やっぱり来たか?誰を待っていた?私はおじさんの言葉を繰り返した。おじさんは何も言わずジェスチャーでついてこい。をしていた。
ハクギンドウの扉から現れたのは、ドラゴンフルーツおじさんだった。
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