エイトマンVSセカイ

@m89

イトマンの回

 6月の那覇空港は蒸し暑かった。


「まもなく着陸態勢にはいります。現在の沖縄県は気温29度、湿度78パーセント。少し蒸し暑いかもしれません。ですが、日常とは異なった感動に出会えるはずです。ぜひ沖縄県を楽しんでいってください」

 沖縄県は羽田から2時間半。あっという間についてしまう誰もが知っている日本のリゾート地だ。

 着陸アナウンスが入ってから、急に機内がにぎやかになった。機内灯がついたからかもしれない。窓のシェードを上げたからかもしれない。観光地に向かう人々のあかるさがさらに明るくなった。ワクワクが伝わってくる。

 デッキに連結され扉が開く。ビジネスクラス、エコノミーの順で降機するのだが、今回の機体はエコノミーだけなので、人々が一斉に動き出す。私も上の棚から荷物を取り、列に漏れることなく並ぶ。ディズニーランドのアトラクションよりより少し早く前に進む。

 空港内に入り、ベルトコンベアの前で荷物が回てくるのを待ち、到着ロビーから出る。どの空港でも同じ作業なのだが、その先が違う。カラフルな魚が泳ぐ水槽が目に入り、外にはヤシの木が何本も並んでいる。南国に着いた感じが出てくる。

 私はスマホでレンタカーの送迎バスの位置を確認した。何社も並んでいる送迎バスの真ん中くらいにあった。画面を見せタブレットにサインをしてバスに乗った。バスはほぼ満席だった。座席に座り、ほんの少し待ったら、バスは出発した。

 空港を背にして南に向かう。中央分離帯にヤシの木。歩道に見たことのない木。その向こうに自衛隊基地。初めて見る景色は少し異様に映った。


 バスのフリップダウンモニターが動き、沖縄民謡が流れ始めた。「ハイサイ」独特の訛りで女性が話し始めた。沖縄の歴史。文化。観光地。最後に交通事情を念入りに話していた。

 バスはいつの間にか海の上を走っていた。後ろのほうでシャッターの音が聞こえ、話し声も増えた。海の上から側道へ入り、レンタカー会社に着いた。巨大シーサー(守り神)がよく目立つ。流れ作業のよう流され青いレンタカーが振り分けられた。私は簡単な説明を受け出発した。

 

 さらに南へ向かった。目的地は糸満市。今は豊見城市のため隣の市まで移動する。コンビニで飲み物を買い、さっそくレンタカーを汚す。コンビニから出発して不動産屋に到着。事務的なことはネットで済ましていたので最終確認とサイン。カギの受け取り。そしてまた南下。不動産屋から15分くらいで新居に到着する。都内だったら45分はかかる筈だと思った。

 新居に入り荷物を置いた。何もない部屋はただ広く感じた。立て続けに水道、電気、ガスの業者が来た。見事に同じ口調だった。よくわからない説明と大きい字の契約書と小さい字の約款を置いていった。これで何とか生活はできる。

 ひと段落。文字通りひと段落した。私は板の間でそのまま寝てしまった。

「ピーンポーン ピーンポーン」

 チャイムで目が覚めた。どれくらい眠っていたのか分からなかった。チャイムが鳴り続いているので、仕方なくでた。

「あんたここの人かね。ドラゴンフルーツ食べて」

 頭の中は?だらけになった。ドラゴンフルーツおじさんはドラゴンフルーツを置いて帰っていった。ドアにも違和感がありドアノブを見るとビニール袋がかかっていた。袋を取り部屋の中に入った。袋の中身を確認するとソーメンを炒めたヤツが容器いっぱいに入っていた。もしやと思いポストを見に行くとチジミみたいなものが透明のビニール袋の中に詰まっていた。

 軽くパニックになり、急いで階段を上り部屋に戻った。インターホンのカメラの履歴を見ると何人も残っていた。ちょっとぞっとした。

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る