第2話

何気無い雑誌の広告欄に 小さくて見逃しそうな 『人殺し承ります』という文字……


何か映画のタイトルかと見間違えそうだったが、 その電話番号を控えておいた。

それは彼女を凌辱された2週間後だった。


あれから2週間経ったが静香は学校を休んでいる。 いや、もう二度と登校して来ないかも知れない。


何を言われても良いと思って静香の家へ行ったが会ってくれる事は無かった。

そのまま…どこか遠くへいってしまいそうな気がした。


やりきれなくなり、あの雑誌から控えた電話番号に電話していた。


『はい、ご用件は?』

短く力強い言葉に焦りを隠せなかった。


『あの……殺してほしい人が居るんですけど…。』

しぱらく沈黙が流れた。


『あの……雑誌の広告欄に《人殺し承ります》って有ったので…。』


『君、この事を誰かに話したか?』


『いいえ……だれにも話していません。』


『そうか……本気で言ってるのなら…話を聞こう、 しかし裏切り者は死刑だからな、 よく覚えておいてくれたまえ。』


《 裏切り者は死刑… 》 小学生の頃、ガキ大将がよく言っていた。

しかし、大人にリアルにいわれると凄みがある。


『 分かりました。  僕の人生はヤラレっ放しの人生でした。  恋人を強姦された事で殺意が涌いてきたんです。』


そこまで話さないと信じてもらえないと思った。


……………………………


『そうか……分かった、今から皇居外苑の桜田門まで走って来い!待ち合わせは1時間後だ! 』


俺は三鷹駅から中央線、丸ノ内線に乗り換えて霞ヶ関、そして桜田門へと走った。


息を切らせて桜田門へ着くと…… いかにも殺し屋の雰囲気のするサングラスを掛けた30代の男が立っていた。


その男は腕時計を見ながら「9…8…7…6…5…4…」とカウントダウンしているように見える。


「あのう……ひとごろ…し…の方でしょうか?」

男は聞く様子も無く……歩き始める。


「誰にも付けられなかったろうな?」

男は確かにそう言った。


「はい……誰にも……。」

男は注意深く周りを見回した。


「付いてこい……。」

男は有楽町線、京浜東北線、根岸線と乗り継いで石川町駅で降りる。


男は横浜中華街に向かい、小汚ない雑居ビルの前で 一服する。

やはり周りを警戒している。


タバコを消すと 「コッチだ……。」 と案内された。

看板には『安心探偵社』と書かれていた。 俺の口角が下がる……


「可笑しいか?」


「いえ……。」


事務所に入ると20代の女性がお茶を出してくれた。


「いらっしゃいませ……。」


男はサングラスをやっと取ると

「詳しい話を聞こう……。」と言った。


俺はイジメられてきた事、彼女が辱しめられた事を話した。


「それで殺したいと……?」


「はい……しかも自分の手で……。」


男は いつもと勝手が違うと言わんばかりに

「どうしても……自分で?」と聞いてきた。


俺は無言で深く頷いた。




「計画は練ったのか…?」


「いえ……具体的には……まだ。」


「手に入れたい道具は?」


「拳銃とかライフルは素人には扱いが無理ですよね? 薬とか爆薬とかは?」


「足をコンクリート詰めにして海に投げるとかな……。」


「それも良いですね……。」


男は俺が同意したので気を良くしたみたいだ。


「実行日は、いつ頃が良いのか?」


「直ぐにでも……。 俺の辱しめられた彼女が この町を去らないうちに…」


「じゃあ二日後にするか? 明日は準備だ…。 今日は泊まっていけ! 

仲間は一緒にいるほうが良い。 

殺ったら、しばらく解散だ……。」


「あの……費用とか…報酬とかは?」


「ああ……大事な事を忘れてたな。」


「準備と協力、手引きで50万でどうでしょうか?」


「う~ん、もう少し色を付けてくれよ、やる気が削がれるなあ……。」


「じゃあ70万で半殺しっていうのは……?」


「う~ん……半殺しならそれで良いだろう。  心的ストレスも半分だし。」


俺は『安心探偵社』に《半殺し》の手引きを依頼した。

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