3ー7 非常事態の対応
「……話を聞いていたのか? これから行く場所は危険なんだ!」
「たしかに私は経験不足です。でも、聖女としての訓練は怠ったことがありません。魔力量にだって自信があります。私なら、瘴気溜りを聖域で浄化できます!」
胸に手のひらを押し当てて訴える。
先生が迷う素振りを見せたが、その迷いを振り払うように頭を振った。
「ダメだダメだ。聖女に戦う力はない」
「分かってます。でも、私にはノア様やティリアちゃんがいます。一人じゃなにも出来ないけれど、三人なら瘴気溜りだって払って見せます!」
クラウディアは強気な口調で言い放つ。
さっきまで、俺もクラウディアと同意見だった。
でも、クラウディアが強気な発言を始めたことで、逆に俺は冷静になった。このままクラウディアを瘴気溜りに向かわせたら、思わぬ怪我をするかもしれない。
そう考えた俺は先生に味方する。
「クラウディア、おまえがそこまで危険を冒す必要はない。クリフォード王子だって、俺達にそこまでの行動は望んでいないはずだ」
「……分かってるよ、ノア様。クリフォード王子の役に立ちたいって気持ちはあるけど、私が行動に移したいと思ってるのはクリフォード王子のためじゃないよ」
「……じゃあ、なんのためだ?」
ここで結果を出せば、立身出世は思いのままで、名声も手に入るだろう。でも、クラウディアがそんなことを望んで無茶をするとは思えない。
「ガゼフくんやリックくん、それにレティシアさんのためだよ。もう、みんな私のクラスメイトだもの。危険な状況にあるって言われて、放ってなんておけないよ」
「クラスメイトのため、か」
「うん。それに、ノア様にとって。ガゼフくんは友人なんでしょ?」
「……あぁ、そうだな」
たしかにガゼフは友人だ。親友だと言っても間違いじゃない。
本音を言えば、俺だってガゼフを助けたい。
「クラウディア、それにティリア。手伝って……くれるか?」
俺の問い掛けに、二人は揃って笑顔を浮かべた。
「おいおい、おまえ達。盛り上がってるところを悪いが、俺は許可していないぞ」
「カルロス先生は強いですよね?」
俺はにやっと口の端を吊り上げて先生に問い掛けた。
「なんだ? 煽ててもダメだぞ?」
「去年はいくつものチームを壊滅させたって聞きました」
「まぁ……そう言うこともあったな」
「その先生が一緒なら、なんとかなると思いませんか?」
先生は目を瞬いて、それから思わずといった面持ちで溜め息をついた。
「……ったく、帰ったら大目玉だな、こりゃ」
「そのときは、俺も一緒に怒られてあげますよ」
軽口を叩くと、頭をパシンと叩かれた。
「ばぁか、生徒に責任なんて取らせられるかよ。俺の責任の下、おまえ達を連れていく。だから、俺の指示に逆らうんじゃねぇぞ?」
「「「――はいっ!」」」
こうして、俺達は闇夜の中の強行軍を開始した。
◆◆◆ 三人称:アイリ視点 ◆◆◆
ところ変わって、こちらはアイリ達のチーム。ノア達のチームが魔物の発生を報告してからほどなく、エンド王子から連絡が入った。
むろん、状況がlive中継されている以上、外部から情報を得ることは禁止されている。通信用の魔導具は、エンド王子が不法に持たせたものである。
アイリは他の仲間に見張りを任せ、テントの中で報告を受ける。
そして――
「チェックポイントの近くに瘴気溜りが発生した、ですか?」
『そうだ。ゆえに模擬訓練に参加しているチームにはじきに撤退命令が下されるだろう。だが、ふざけたことに、クラウディアのチームが瘴気を払いに向かうらしい』
「彼女は第四階位の聖女ですから、不思議なことではないと思いますが……」
『そんなことは分かっている! だが、クリフォード王子のチームとして、クラウディア達がそのような活躍をしたら、俺の立場がなくなるだろうが!』
「……失礼いたしました」
たしかにその通りだが、それはエンド王子が自分で蒔いた種だ。そう言うことが出来れば爽快だが、彼女の取り巻く状況がそれを許さない。
『良いか、よく聞け。おまえ達に付けている監視はこちらでなんとかする。だから、おまえ達も瘴気溜りに向かい、クラウディアのチームを出し抜け』
「彼女と協力するのではないのですか?」
彼女は自分の味方だとおっしゃっていたのでは?
と、声には出さずに問い掛ける。
『彼女が敵か味方かは関係ない。クリフォード王子のチームが活躍すること自体がまずい。だからどんな手を使っても出し抜け。クラウディアのチームに決して後れを取るな!』
エンド王子はそう捲し立てると、続けて『指示は以上だ』と一方的に通信を切った。
苦々しい思いを抱えながら、アイリは仲間達にその指示を伝える。
当然のことながら、仲間の二人は不満そうな顔をした。
「この非常時に、協力するのではなく、出し抜け、と? しかもどんな手を使って持って、妨害しろって言うことですわよね?」
「先輩、まさかそんな命令に従うつもりじゃないよな?」
聖女、それに後輩の騎士が詰め寄ってくる。
「……従わなければ、実家がどうなるか分からないわよ?」
アイリの返しに、二人は途端に苦々しい顔をする。
だけど――
「たしかに、従わなければ実家が困ったことになりますね。でも、このまま従ってたら大丈夫だって保証はあると思いますか? 私はないと思います」
聖女が疑問を呈する。
それに答えたのは騎士だった。
「俺も同意だ。魔導具で撮影されてるんだ。妨害はもちろん、出し抜くなんて不可能だ。エンド王子だけじゃない。俺達の立場だって危うくなるぜ」
「そうよね。なにより、ノアくん達をこれ以上裏切れないわ」
「だよな。二人を見捨ても同然の俺達に、二人は手を差し伸べてくれた。そんな二人の恩に徒を返すなんて恥ずかしい真似できるかよ!」
徐々に盛り上がっていく二人は、最後にアイリに視線を向けた。
「だから、クラウディア達を助けに行こう」
「そうだぜ、先輩。指示には従ったフリだけしておけば良いじゃねぇか!」
二人に詰め寄られたアイリは――ふっと笑みを浮かべた。
「……あなた達が、私と同じ気持ちで安心したわ」
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