2ー2 庶民仕様のメイド服
自信満々に笑うガゼフが頼もしい。
軽薄で女好き。
そんな印象の強いガゼフだが、実は思い遣りが有り、その能力も間違いなく一流だ。
だが――
「気を付けろよ、ガゼフ。エンド王子のチームはともかく、クリフォード王子のチームは強力だぞ。たぶん、今回一番のライバルだ」
クリフォード王子の仲間として明かせない情報もある。なので問題にならない範囲で、クラスメイトとしてガゼフに忠告をする。
「……クリフォード王子のチームか。エイブラ様が指導してるらしいな?」
「ああ。伊達に剣の一族を名乗ってないぞ。しかもかなりの策士だ」
「ほぅ……って、妙に訳知り顔だな?」
「訳あって、いまはクリフォード王子に世話になってるんだ」
声をひそめて伝えると、ガゼフは大きく目を見張った。
「おいおい、エンド王子の護衛騎士だったおまえが、かよ?」
「ああ。しかも、クラウディアと一緒だ」
「それは、また……はは、面白そうなことになってるな」
いまのところ、エンド王子に動きはない。
だが、自分が無能呼ばわりして放逐した二人が、既に自分の手を離れて弟のもとで働いている。そんな事実を知ればどうなるかは自明の理だ。
「ま、自然に噂が広まるまでは秘密で頼むな」
「おぅ、任せときな」
にかっと笑みを浮かべて見せた。
ガゼフなら信用して大丈夫だ。
「まぁそんな訳で、そのうち忙しくはなると思うが、学園祭は暇なんだよ。のんびり参加するのは初めてだから、ちょっと楽しみだ」
学園祭は全部で三日。しかし、クラス代表になると、参加する模擬訓練が二日目と三日目にある。初日は準備が忙しいので、学園祭にはあまり参加できない。
高等部になって二回目の学園祭だが、俺にとっては初めてみたいなモノだ。
「たしかに……のんびりって言われると想像できねぇな。って言うか、クラスはカフェを開くんだろ? ノアもウェイターとかさせられるんじゃないか?」
「まぁそれくらいはな」
手が空いた以上、手伝うのは当然だと思ってる。
「ふぅん。おまえはどんな恰好をするんだ? たしか、給仕服は自分で用意するんだろ?」
「……普通の執事服」
「なんだよ、普通の執事服って」
俺も知らん――なんて言うと、クラウディアが用意したとバレるので黙る。
「あぁ、そういや、クラウディアはメイド服を着るらしいぞ」
「……メイド服? 使用人クラスの女子が来てるような、あの飾りっ気のないメイド服か?」
「いや、そういう普通のメイド服じゃなくて、庶民仕様の……」
みなまで言うより早く、ガゼフがくわっと目を見開いた。
「まさかっ、最近街で人気の、平民が貴族な気分を楽しむために作られたという、ぜんぜんメイドらしくない露出過多な衣装を着て給仕してくれるカフェとかの店員が着るメイド服か!?」
「……いや、そんな異質な店は知らん」
物凄い食い気味に迫られてドン引きである。
「あーえっと、あれだよ、あれ!」
「どれだよ」
「メイド服なのに、袖や裾がレースだらけのフリフリ。胸元は谷間が見えるくらい開いてて、スカートは太もも丈の、あのメイド服か!?」
「……ふむ。たぶん、そのメイド服だな」
クラウディアは、それに加えてガーダーベルトのニーハイソックスも履いていたが。
「うおおおおぉぉおおぉおっ、見たい! ノア、俺とクラスの代表を代わってくれ!」
「いや、そんな簡単に代われるものじゃないから」
「なんで俺はクラスの代表なんだ!?」
「……おまえが優秀だからだろ」
「ちくしょうっ、優秀な自分が恨めしい!」
聞く人が聞けば完全に喧嘩を売っているが、本人は間違いなく本気である。ガゼフが血の涙でも流しそうな勢いだ。
どうしたものかと視線を泳がせていると、ちょうど組み手を終えたクラウディアと目が合った。体操着姿の彼女は、タオルで汗を拭きながら俺達のところへとやってくる。
「二人とも、なにをそんなに騒いでるの?」
「クラウディアちゃんっ! 学園祭のカフェでメイド服を着るってホント!?」
「ふえ? ノア様に聞いたの? は、恥ずかしいなぁ。着ようかなって言っただけで、本当に着るかはまだ決めてないんだよね」
「――ノアが見たいって言ってた」
物凄い反応速度だった。
ガゼフのヤツ、クラウディアにメイド服を着せるために必死だな。まさか、初日の模擬訓練の準備で忙しい中を縫ってカフェに行くつもりなのか?
なんて思っていると、クラウディアがなにか言いたげに俺を見ていた。
「念のために訂正しておくが、俺は言ってないからな?」
「いいや、言ってたね。俺にはノアの心の声がたしかに聞こえた」
「へぇ。ノア様はメイド服を着た私を見たいんだぁ~?」
クラウディアが意味深な視線を向けてくる。
こいつ……俺が言ってないって分かっててからかってるな。
だけど、言えない。
二人っきりのときに、既に何度も見せてもらってるなんて、ガゼフには絶対に言えない。
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