09話.[一切していない]

「成瀬さん」

「宮前」


 放課後、教室でゆっくりしていたら部活に行くはずの宮前が話しかけてきた。


「どうしたんだ?」

「結花と元が付き合い始めたから」

「そんなの気にしなくていいだろ、俺だったら遠慮なくいくぞ」


 実際、いまはただぼうっとしていただけだった。

 そういう遠慮は一切していない、空気を読めていないのだとしても簡単には捨てられない。


「元のことが好きなんだろ?」

「そうよ」

「モテモテだな」


 宮前に比べればそうじゃない。

 私達以外の人間と一緒にいるところは見たことがないし。

 過去は~なんて考え方にもならない、難しい存在であることは確かだから。


「ちゃんと言えた成瀬さんはすごいぞ」

「そういえば宮前は言えない相手なのよね」

「だな、だから言えただけで十分すごい」


 結花が動いたタイミングで言うのなんて性格が悪いとしか言えない。

 珍しく不安だった、受験とかだってあそこまで不安を感じたことはなかった。

 ただ自分がしてきたものをぶつければ問題はなかったからだ。


「今度みんなでまた焼き肉に行こう、今度は元と成瀬さんに沢山食べてもらう」

「それなら元の家でやればいいじゃない、食材も買ってきて」

「だな! それならそうするか!」


 いまはなんでもいいから口実がほしかった。

 諦めるためではなくて、好きな人間といたかったから。

 抱きしめたりはできないけど、仲良くすることならあのふたりも許可してくれるだろうから。

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