第11話 魔法の検証 1

ソフィ母娘を村まで送ってから6日後、春馬との約束の日になった。


草原の中を真っすぐ伸びる地道を歩くリリカは、前日から落ち着きが無くソワソワしながら旅していた。


足を止めると、風で揺らぐ背の低い草花の向こうに地平線が見える。


遮る物が無い草原を強い風が吹き抜けた。

緑色の髪の毛を掻き上げたリリカは、何もない道を眺めた。


春馬が去った後、先へ進もうとしたリリカはソフィに引き止められた。


どうしても助けてもらったお礼をしたいと話す彼女の好意に甘えたのだ。一晩だけ彼女の家でお世話になった。


村を出てからは、今日まで黙々と一人で歩き続けた。後何日ほど歩けば、ランケウエルに着くのだろうか、まだまだ建物らしき物は見えない。


「うーん、もう、呼んでも良いかな? 朝早くからだと迷惑かな? あまり遅くなってもダメだし。あー、どうしよ」


気持ちの高ぶるリリカは、リュックを背負ったまま草の上で座り込む。


「悩んでいてもしょうがない、よし! 春馬さんを呼ぼう」


背中のリュックを下ろし周囲を見渡した、草原を行きかう人は誰も居ない。それどころか、空を飛ぶ鳥以外に動物の居る気配さえしなかった。


「大丈夫そうね、ではでは、・・・来て」と、ネックレスに意識を集中させゆっくりと手を地面にかざした。


地面から光が立ち上り、その中から春馬が現れる。いつも通り、ちゃんと呼び出しに答えてくれる。


「草原か? 気持ちいい風が吹いてるな」、片手にスマートフォンを持った春馬は、深く深呼吸して綺麗な空気を味わった。


今日の彼は、パーカーにジーンズとラフな格好をしている。汚れても良いように、準備していたのだ。


「呼び出すの、遅かった?」、リリカは唇に指を当てて首を傾げていた。


「まあ、あれだ、調度良いタイミングだった・・・と、思う」


「良かったー、安心した」


「それじゃあ、今日は、魔法について教えて欲しい。そのあとは、いくつか検証をしたいと思っている。もし、俺の仮説が正しいなら、今までより威力のある魔法が出せるかも知れない」


「えーと、威力のある魔法が出せるの?」


「そうだよ、想像力が重要なら実際に見て学んだ方が、魔法の上達には近道になるんじゃないのかな」


そう話す春馬は手に持つスマートフォンで、リリカと一緒に動画を見ようと考えていた。草の上に座った春馬は、リリカに隣へ来るよう促した。


「なんですか、これは?」、スマートフォンを不思議そうに覗き見た。


「スマホだよ。俺の世界では、コミュニケーションツールとして使ってる。大人から子供まで、誰もが持っている機械だよ。遠く離れた人と話をしたり、知りたい情報を探したりするんだよ」


「ふーん、でも、なんか真っ黒だよ」


「まあ、見てなって。異世界まで電波は届かないから、見せたい動画を録画したんだ。とりあえず、見ながら説明するよ」


春馬はスマホの画面に触れアイコンを出した。パッと画面が明るくなると、リリカは口を開けたまま目をパチクリして、かなり驚いた様子を見せる。


「まずは、動画を見る前にリリカが使う魔法について教えてくれ」


リリカは、草の上に手をかざして土魔法を唱えた、「大地よ我に従え、我は望む・・・テーブルを」


二人の目の前で、ボコボコと土が耕される。暫くすると、四角い正方形の土のテーブルが出来上がった。丁度、いい具合の高さのちゃぶ台のようだ。


リリカは、土のテーブルの上を黒板代わりに使う。彼女は指で円を描き、次にその円の中に線を入れて、4つに分けた。


「はい、じゃあ説明するね。魔法は、イメージを現実にする事です。それは、自然界で起こる現象を意図的に起こす様な感じです。服や食べ物なんかをイメージしても、魔法では出せません。でも、火と水と風と土、この世界を作る4つの属性なら魔法で出せるんですよ」


「それで魔法は、誰にでも使えるのか?」


「そうですね、使える人と使えない人がいます。何だっけ、確か血筋が、関係していると教えて貰いました。生まれた時に、その力を受け継いでいるか、受け継いでいないかですね」


「ふーん、血筋が関係するのか。それなら力を受け継いでいれば、魔法が使えるって事だよな」


「その通りです! でも、力を受け継いでいても魔法自体の力は、それぞれ人によって違いますが」、説明を続けるリリカの声が小さくなり、自信の無い口調になった。


それでも目をつぶって考える彼女は、自分の中の知識を絞り出そうと、両腕を組んで唸り声を漏らした。


「うーんと、後ですね、私もあんまり理解できていなけど、思いの強さとか言葉とかが、魔法士の力を決めると聞いています」


「どういう事だ? 思いが強ければ魔法が強くなるのは、なんとなく理解できるけど。言葉が影響すると言う意味が、いまいち分からないな」


「ゴホン、それはですね。魔法を出す時の詠唱が、関係してくるのですよ」


うんうんと、頷きながら自分自身で納得するリリカは、大学生を相手に先生にでもなった気持ちでいる。そんな素振りを見せる彼女は話を続けた。


「特に決まりは無いけど、服従、貸与、願い、この三つを加えないと魔法は発動しないの。魔法の強さは、この使用する言葉で変わります」


「服従、貸与、願いの順で、魔法の威力が異なるのか」、興味深そうに春馬は顎を触っていた。


「そこなんですよね。理由は知らないけど、生まれ持った資質で、詠唱に使える言葉が決まっているの」


「そうなると、リリカはどの言葉を使っているんだ?」


「えーと、私は、一番強い服従を使っているの。一般的な魔法士は貸与を使うと、おばあちゃんから聞いたっけ」


「言葉の問題は、それだけなのか?」


「あと、上手く説明出来ないけど、使う単語でも魔法の威力は変わるのよ。例えば、火よ出よと言えば薪を燃やす様な火が出るんだけど、焼き尽くす業火と言えば、火力の強い炎が出せるよ。でも、単語の意味を理解してなかったら、強い魔法は出ないと教えられた」


「結構、奥が深いな」と、春馬は感心した。

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