第8話 盗賊の森 1

パートナーの春馬と初めて出会えたリリカは、たまらなく嬉しかった。


思わぬ形で彼を呼び出してしまったが、自分を助けてくれる存在がはっきりして、頭の中のモヤモヤが消えてスッキリしたのだ。


晴れ晴れとした気持ちのリリカは、スリから財布を取り返してもらった後も、暫くシュバーチに留まっていた。


この町が気に入ったのでは無い、ただ単に旅費を増やすために滞在期間を伸ばしていた。


持っていた薬草で、おばあちゃんに作り方を教わった簡単な薬(滋養回復薬や腹痛などの痛みを和らげる薬)を作っては、買い取りをしてくれる道具屋に持って行く。そんな事を繰り返していたのである。


薬を売り始めてから5日も経つと、持っていた薬草も尽きかけてきた。


薬草は旅の途中で採取できるから、そろそろ町を出るタイミングになったと感じた。


「次の町へ行くには、森を通り抜けないといけないから、気を付けながら進もう。でも、何かあったら春馬さんが来てくれるから、安心かな」、リリカにとってパートナーの存在は、一人で旅をする不安をも和らげてくれた。


森に入ってから3日間、リリカは鳥のさえずりを聞きながら、木漏れ日の下を歩いていた。


木々の香りは、彼女の心を安らかにしてくれる。薬草や山菜や木の実などを採りながら、緑に包まれる世界を堪能しながら足を進める。


太陽が沈み森の中を照らす光が失われると、たちまち暗闇に覆われ足元が見え難くなった。夜の森は危険なので、日が暮れる前には野宿する場所を見つけないと。


出来るだけ暗闇の中に溶け込み、同化して危険から身を守らなければならない。クマや狼などの猛獣と盗賊がこの森どこかに潜んでいるから。


今日は、ここで野宿しよう。


立派な幹を持つ大木の傍で、リリカは拾い集めた薪に魔法で火をつけた。


森の中だと、一人で過ごす夜は寂しい。せめて一人だけでも話し相手が居れば、気も紛らわせるし、楽しいだろうに。


今のところ危ない目に合っていないリリカは、春馬を呼ぼうとしなかった。


火の中に枝を投げ込む彼女は、異世界で暮らすパートナーは何をしているのだろうかと、ぼんやりしながら考えていた。


動物の鳴き声が微かに聞こえる中、焚火の前で大木の根っこにもたれて眠るリリカは、身に纏うマントで小さな体を包んでいた。


そんな彼女に危険が迫りくる。


森の中でランプを手に見回りをする怪しい男達が、彼女の方に向かっていた。大男と痩せた男の二人は、弱々しい光を放つ焚火に気が付いた。


大男は音を立てない様に近づいて来る、「こんな所で野宿しているのか」


「ほかに人が居ないか確かめろ!」と、痩せた男が大男に命令した。


大男は痩せた男に言われた通りに辺りを確認して戻ってくると、「見張りもいないし、誰もいないぞ。一人で野宿とは、不用心な子だ」


「こいつは金になる、連れて行こうぜ」、痩せた男が寝ているリリカの口を手でふさぎ、手早く持っていた縄で彼女の両腕を縛り上げた。


目を覚ましたリリカは、突然の事で何が起こったのか理解する間も無かった。気が付いた時には、大男の肩に担がれそのまま森の奥へと連れて行かれてしまった。


男達は、近くの村や森の中を通る旅人を襲う盗賊団の一味だった。


盗みをする目的で、森の中にあった廃屋を自分達のねぐらにしていたのだ。


廃屋の裏には浅い洞窟があり、捕まえた人々を閉じ込めるための牢屋として活用している。大男に担がれたリリカは、そこに連れてこられてしまった。


「変な所、触らないでよ変態! 下ろしてよ、もう、早く下ろして!」、リリカは体を揺らし抵抗していた。


「うるさい小娘だな、ほらよ」、大男は肩に担ぐリリカを地面に投げ落とした。


「痛い・・・」と、リリカは背中から地面に落とされた。


「大人しくしていろよ!」


大男が牢屋から出ていくと、リリカは魔法で炎を出し両腕と両足を縛る縄を焼き切った。足音に気が付いた彼女が振り返ると、牢屋の奥から大きな人影と小さな人影が近づいて来る。


「大丈夫ですか?」と、大きい方の人影が話しかけて来た。


「え、誰?」と、リリカは後退りする。


「私は、ソフィ。近くの村に住む者です」と、若い女性が姿を現した、「山で山菜を採っていたら、盗賊に捕まって・・・」


ソフィの後ろから10歳ぐらいの女の子が、リリカを覗き込むように見ていた。


「ふふ、この子は、私の娘でジュリよ。お姉ちゃんに挨拶は?」


「はじめまして。ジュリです」、恥ずかしそうにお辞儀した。


「私は、リリカ。旅人なの、よろしくね。あのー、・・・これから、私達はどうなるの?」


「分からないわ。でも盗賊は、明日にでも村を襲うと話していたから。心配で、早く誰かに知らせないと」


「それなら、助けが必要ですね」、目を閉じたリリカは、身に着けるネックレスを両手で包み込み、春馬に来て欲しいと願った。



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