其の三


 いらっしゃいませ。お客様のご希望をお伺いできますでしょうか?


「あー……えーとその。何かプレゼントを見繕って欲しいんですけど……」


 プレゼントですか。しかし不躾ながらどうやら裕福そうな格好に見受けられます。ここに来店された以上は何かしら理由があってのことだと思いますが、そちらについて伺っても?


「そうですね……一応、お金貰ってスポーツやってるんで、ある程度はブランドとかでもいいんですけど。その、えーとですね……」


 歯切れが悪そうですね?どうぞ、率直に仰ってくださいな。


「わ、分かりました。実は、そのプロポーズしたい相手がいるんです」


 ほうほう。それはそれは喜ばしい事です。しかしそれだけではないですね?


「よくわかりますね……実は昔馴染みの女の子で、付き合うようになったのも割とこう、流れのような感じだったので、プロポーズはちゃんとしたいんです。せっかくだから一生の思い出になるような、そんなものにしたくて……」


 なるほど。お相手の方もそのように思われてさぞ喜ばれることでしょうね。よろしければそのまま必要な話になりますので、そのままお相手のこと、あなた自身のことをお話いただけますか?


「そうですね……彼女は宝石とか、ブランド物とか、高価なものは元々好きじゃないみたいで、それよりも試合のチケットとか渡してあげたほうが喜んでくれてた気がするんです」


 あなたの地位やお金ではなくあなた自身が好きなのでしょう。いいことだと思います。それではあなたが当店に来る前のプレゼントの候補についてもお話ください。


「一応、自分なりに考えてたんですけど……食べ物とか花とかよりは何か形にして残したいしって思ったし何か物を送れないかな、とは思ってましたね」


 いいアイデアだと思いますよ。ただ、そのアイデアでちょうどいいものが見つからずに当店にお越しくださったわけですね。


「そうなんです。プレゼントは色々考えてたりしてたので見たりしてるんですけど、これだ!ってものがなくって。それでズルズル先延ばしになってた時に番記者……えーと自分専属、ってわけじゃないですけど自分を中心に取材してる知り合いの記者が『どこかで聞いたんですけど、異国交換屋って知ってますか?』って教えてくれたんです」


 そうですか。風の噂が人を伝ってお客様が来てくださるのはありがたいことですね。

 さて、折角お話をお伺いしましたし……こちらからプレゼントを1つ提案させていただきましょう。


 こちらですが……なんだと思いますか?


「えーと……栞ですか?」


 ええ。四つ葉のクローバーの栞、です。あなたがお好きな花と聞かれた時にクローバーとお答えになったことがありますね?山本猛ヤマモトタケル選手。


「あぁ、僕のこと知っててくれてるんですね」


 ええ。お名前とそのお話くらいではございますが。

 あなたの好きなそのクローバーには意味がございますが…御存知ですね?


「希望、信仰、愛情、幸福の4つですね?愛情があるからちょうどいい……とかですか?」


 それも勿論含んでおりますが、もう1つ意味があるのです。それが『私のものになってほしい』だそうですよ。あなたの本質を好いてくれる方へ送るものとしては適任だと思いませんか?


「…………いいですね。でも、それとだと何を交換するのがいいですか?」


 それではこちらからお願いしたいのはあなたのお持ちのサッカーボールを1つ、頂けますか?


「今持ってるのだと……昔から使ってるボロボロのしかないんですけど」


 大いに結構。今をときめくスター選手のものであれば価値が十分にあると言えるでしょう。こちらとしては交換せずご自分でクローバーを探していただいて作ることもできる中で不躾な提示ではございますが。


「いえ。そのアイデアはなかったですし、そちらをいただけるならお渡しさせていただきます。もう、10年以上も前からの付き合いですけどよくもってくれてます」


 そうですか。ご好意を持っていただけるのは誠に有難うございます。それでは恐縮でございますが、交換をさせていただきます。




 では以上となります。どうかお相手、ユウキ様とお幸せになるよう、お祈りしております。なぜ知っているのか、というお顔をされていますが、こちらに関してはお答えしないようにさせていただきましょう。不思議は不思議のままでもいいのですよ。


 それではどうかご健勝で。これからのご活躍もお祈りしております。

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