第7話 パオーンがボローンしてイヤーン
「は~い、ぬぎぬぎしましょうね~!」
「えっ、ちょっ、雨宮サン!? 待って!? しかも、下からいくの!?」
素早く身を屈めた雨宮が足に飛びついてきて、俺のズボンを脱がそうとしてくる。なんとか俺も反応して、ズボンを一瞬で剥ぎとられることは回避できたが、そのままズボンの綱引きが開始してしまった。
絶対に脱がせようとする女と絶対に脱ぎたくない男、ホコタテの開幕だ。
「ハイタツくんのくせに、抵抗するとは生意気な――!」
「て、抵抗して当然だよね!? どうしてそんなに脱がせようとするのさ!?」
「そんなの、面白いからに決まってるじゃん!」
で、でた! 陽キャ特有の面白ければオッケー理論! そんなの社会じゃ通用しないんだからな!
俺の方が力は強いとは言え、重力を味方につけた雨宮も意外と強い。全体重をかけてズボンを下ろそうとする雨宮に対して、俺はどうにか戦線を維持するので精一杯だった。
俺の体力が尽きるのが先か、雨宮が飽きるのが先か……あぶな荘202号室史に残る天下分け目の戦いが、いま正に行われているのだ。
下の階に住んでいるオジサンから「うるせえぞ!」なんてヤジが飛んできたが、俺の耳にはそれすらも
「意外と抵抗するじゃない! さては、なにか隠しているな!」
「そりゃ大事なモノを隠してますけど!? というか、雨宮! ズボンだけじゃなくて、パンツまで掴んでる!」
このまま俺が負けてしまえば、パオーンがボローンしてイヤーンしてしまう。
しかも雨宮は俺の足元にいるわけで……これは位置的にも非常にマズイ。なにがマズイって、みなまで言ったらコンプライアンス的にアウトなんじゃないかってくらい、とにかくいろいろとマズイのだ。
「はっはっはっ、よいではないかよいではないか」
「な、なにもよくない! キャ――! お助けを――――!」
俺の野太い悲鳴を聞いて、さらに楽しそうに笑う雨宮。パンツまで掴んでると聞いて、なぜかガッチリと握りなおしやがった。こっちは必死も必死だというのに、コイツは本当に性格が悪い。
俺自身が恥ずかしいのはもちろんだけど、女の子にパオーンを見せたらダメだと思って、俺は必死に抵抗しているんだぞ。なんでその女の子の方が、嬉々としてパンツを脱がそうとしてくるんだよ。
「ほれほれ~、みせてみろ~」
「う、うぐぐぐ……やばい、力が……ッ!」
ただでさえ寝起きで力が入らないのに、ほとんど昨日は眠れなかったのだ。いつもより体力の消耗が激しくて、そろそろ限界が近づいてきた。
ズボンを握る手はプルプルと震え、俺と雨宮の体重を支え続けた足もガクガクしている。
「あはは、生まれたての小鹿みたい。がんばれ~」
そんな羽泉小鹿くんを見て、さらにニヤニヤと笑って煽る雨宮。これはパンツを脱がせるのがどうというよりも、とにかく俺が嫌がっている素振りを楽しんでいるに違いない。
そう考えたら、なんだかムカムカしてきたぞ。俺はどうしてボロボロの体に鞭打って、こんな必死に脱がされまいとしているんだ。
見せないように配慮してやってる相手が、「みせてみろ」なんて言っているんだから、お望み通り見せてやればいいんじゃないか?
これは合法的に美少女にパオーンを見せることができる、世の中の露出狂なら泣いて羨むような大チャンスなのかもしれない。だったら、流れに身を任せてしまうのも、また一興。
「もう、どうなってもしらないからな!」
「わわっ!?」
握力の限界とともに、もはや
そして二重の壁で封印されていた怪物が、ついにその姿を見せたのだ。
「パオオオオオオオン! ……あれ?」
「きゅ~……」
しかし、封印を破った張本人である雨宮は、俺が急に手を離したものだから咄嗟に反応できず、思い切りオデコを地面に打ってバタンキューしてしまっていた。
なんだ、これではパオーンの見せ損ではないか。あれほど見たがっていたというのに、まったく失礼なヤツめ。
……いや、冷静になれば見られなくてよかったんじゃん。いったい俺は何を考えているんだ。
「……はあ、馬鹿馬鹿しい」
なんだかドッと疲れてしまった。さっさと着替えちゃって、雨宮を起こそう。完全に目も覚めたことだし、予定通りに買い物へ行きますかね。
そう思い直し、俺がパンツを穿こうとした瞬間――。
「羽泉さん、大丈夫ですか!? さっき悲鳴が――」
突然、玄関のカギが外からガチャガチャと開けられて、ボロボロのドアが壊れるんじゃないかという勢いで開け放たれた。
手に持った鍵で解錠したらしい黒髪の女性は、俺と目が合うとホッとした表情を見せて玄関に一歩踏み入れたが、そのまま視線が下にスライドしたところで、まるで一時停止ボタンを押されたようにピタリとフリーズしてしまった。
下半身を曝け出して仁王立ちする俺と、足元で気絶する若い女の子。最悪なことに、俺の身体の向きは彼女のちょうど真正面。
こ、これはマズイ――――!
「あ、あの、あぶ――」
俺がなんとか口を開き、弁明をしようとした瞬間――。
「キャ――――ッ!」
今度は野太い男の声じゃない、女性の黄色い悲鳴が、あぶな荘に響き渡ったのだった……。
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★あとがき★
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カクヨムコンにも参加してみました!
・カクヨムコン ラブコメ週間 77位
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