第19話結成 水澤小隊

「それじゃあ、お互いに予定を調整して数時間の合同訓練をしろ」


 優一は腕を組みながら玲奈と仁に指示を出す。仁が師匠となる玲奈にとって、優一も師匠に位置づけられる。


『分かりました』


 声を重ねて玲奈と仁は返事をする。そして現時刻を確認した仁は用事を思い出し、その場を去ろうとした。


「すみません。用事が待ったなしになったので自分は失礼させてもらいます」


 優一は仁に「おう」と言葉を返して見送る。玲奈たちにも軽く頭を下げて、仁は帰って行った。


「珍しいな玲奈。お前が他人に感心するなんて」


 遼が玲奈に声をかけるが、玲奈は返事をするどころか、遼と目を合わせなかった。自分以上の強い人間と戦ったことがない玲奈にとって、今回の試験によって自分がいかに弱く、まだまだ成長出来ることに気づかされた。そして惚れ込むかのような鋭い太刀筋を繰り出した仁を見て、玲奈の目標が変わる。


「入隊を目標としていたけど、次の目標が見えた」


 優一も含めて、その場全員が玲奈の目標に耳を傾けた。


「彼に……仁に勝つ。もっと私は強くなる」


 嬉しそうな表情を浮かべる玲奈を見て3人は口角を上げる。


「バーカ。あいつに挑戦する前に俺がお前を倒す」


 遼が玲奈に挑戦をたたきつけるが、今まで玲奈と戦った回数と勝ち星の数を詩織が暴露する。


「50戦中0勝、頑張ってね」


 勝ち星がない事実を突きつけられて遼は顔を赤くする。


「うるさい詩織! 50回負けたからってなんだ!? まだ追いつけるチャンスはある!!」


「そう? 玲奈ちゃんは最強の師匠を手に入れたんだよ? 本当に追いつけるの?」


「ぐッ……追いつく!!」


 言い争う2人を見て玲奈と優一は軽く微笑む。そして優一が言い争いの間に入る。


「長話をしたいなら良い場所を提供しよう……その前に」


 優一は玲奈に目を向ける。


「玲奈ちゃん。念願だった小隊を結成させてみようか」


「そうですね。でも、小隊を結成させる時って何をすれば良いんですか?」


 優一はポケットから一枚の紙を取り出して、玲奈に手渡した。紙に書かれている内容は小隊の結成方法だった。理解しやすいように、優一は言葉でも説明する。


「一番最初に決めてもらいたいのは誰が隊長を務めるかだ。隊長を決めなきゃこの先には進めない」


 玲奈は振り返って遼と詩織に目を向けるが。


『じーーッ』


 2人の視線が玲奈に向けられる。視線を理解するのに言葉はいらなかった。


「え? 私!?」


「他に誰がやるんだよ? 俺は面倒いしパス」


「いくら友達だからって指示するのはちょっと……」


 2人は理由を付けて断る。あまりにも押しつける圧が強かったため玲奈も反論する。


「だからって何で私!? 私だって自分勝手だし、面倒ごとは嫌だよ! こういうのは真剣に考えようよ」


『真剣に考えてる』


 遼と詩織は声を重ねて即答する。あまりにも早い返答に玲奈は言葉に詰まる。


「お前が寝ていた1ヶ月間、詩織とちゃんと話していた。隊長になるのは玲奈が良いって」


「私たちは玲奈ちゃんの飛び方に惹かれて集まったの。玲奈ちゃんが隊長にならないのなら私と遼くんはホープをやめる」


 2人の真剣な眼差しは玲奈の瞳を貫く。玲奈は悩みに悩んだ末、根負けし、「分かった」と声のトーンを落として了承する。2人は笑みを浮かべて、冗談で「隊長!」と呼んだ。


「隊長を務めさせてもらうけど、今まで通り名前で呼ばなかったらやめるからね」


 照れながら条件を出す玲奈に2人はコクリと頷く。隊長が決まったことを確認した優一が話を進める。


「まあ予想はしていたけど、隊長は玲奈ちゃんで決まったね。それじゃあ、次は隊員を募集してみようか」


 優一は玲奈にナノマシンの操作を促した。


「まず、ナノマシンの報告、管理機能を使って本部に小隊登録をする。登録が本部に確認されたら隊員募集を行う。ここまでやってみて」


 玲奈は説明通りにナノマシンを操る。小隊名を「水澤小隊」と命名し、本部に内容を送信する。そして、わずか5秒で登録完了通知が届き、隊員募集もかけて、操作を終える。


「募集をかけたな? それじゃ、次は君たちだな」


 優一は遼と詩織に近づいて説明を始める。


「君たちはナノマシンの情報機能でホープの掲示板にアクセスする。そうすると隊員募集欄があるはずだから小隊名を検索する。玲奈ちゃんの小隊を見つけたら詳細欄をよく読んで、隊長宛てに承認メッセージを送る。ここまでやってみて」


 説明の通りに2人はナノマシンを操作する。無事に掲示板にアクセスして、玲奈の隊員募集の記事を見つける。


「送りました」

「俺も今送りました」


 2人の状況を聞いて、優一は玲奈に向き直る。


「送信したのなら、玲奈ちゃんのところにメッセージが届いているはずだ。確認して?」


「はい!」


 玲奈はメッセージボックスを確認し、遼と詩織の承認メッセージを見つけた。


「送られた承認メッセージのナノマシンの種類と内容を確認して、本人で間違いないと思ったら承認する。承認されると隊員として登録される。これで説明は終わりだよ」


 説明通り、ナノマシンの種類、メッセージの内容を確認して承認した。そして3人のナノマシンに、本部から新規のメッセージが届き、内容が強制開封される。


『水澤小隊の皆様にお知らせです。結成おめでとうございます。このメッセージは小隊が結成されてから送られます。早速本題に入らせてもらいます。小隊として登録されましたので、ホープ生活空間棟において、4LDKのお部屋をご用意させてもらいました。今後はご自由にお使いください。ルームキーも送付させてもらいますので、ナノマシンのロック解除機能にルームキーの登録をよろしくお願いします。みなさまの活躍をご期待しております』


「部屋?」


 玲奈が首を傾げてメッセージの内容を読んだ。


「小隊部屋の案内が来たか。生活空間棟まで案内する。ついてきてくれ」


 優一に言われるがままに、玲奈たちは後を追った。



 ======



 生活空間棟に着いた玲奈たちは自分たちが提供された部屋を探し歩いていた。


「部屋の番号は何番だ?」


 前を歩いている優一は玲奈に部屋番号を尋ねた。


「Cの70番です」


「Cの70か」


 部屋の場所を知っているのか、優一は立ち止まることなく直進する。見渡す限り、多くの部屋が並んでおり、番号や記号が記してあるが、自分たちがどこにいるのか分からなくなるほど部屋の数は多かった。


「Cの70か……着いたぞ」


 Cの70番号の部屋の前で、優一が足を止めた。ご丁寧に登録された小隊名がネームプレートに表記されていた。


「ここが……私たちの小隊部屋」


「本当に今度からここに住んで良いんですか?」


 今まで部屋をもらえずに自宅から通っていた詩織が優一に尋ねる。


「もちろん。君たちはCランク隊員だったから、個人部屋を貰うことは出来なかったけど、玲奈ちゃんが小隊を結成してくれたおかげで、今日から住んでも問題ないよ」


「今まで自宅から通っていたのが馬鹿みたいだな」


 遼が苦笑いしながら言葉をこぼす。


 ロック解除機能にルームキーを登録している玲奈が部屋の扉に手を当てた。ロックが解除された扉は自動で開き、部屋の中が見えた。


「これが……本当に……」


 呆けている玲奈の肩を、優一は優しく叩いた。


「まず、最初に入るのは玲奈ちゃんからで」


『賛成!』


 遼と詩織も声を重ねて優一の意見に同意する。玲奈は遠慮しながらも、部屋に足を踏み入れる。


「じゃあ、失礼します」


 玲奈に続き、遼、詩織、優一も部屋に入る。


 部屋の第一印象は明るく、壁全体が白一色だった。家電は冷蔵庫やテレビはもちろん、パソコンやエアコンも完備している。キッチンは、人2人が作業できる広さ。4つの個室はそれぞれ6畳ほどで、ベッドが設置されており、心身ともに休めるにはうってつけの場所だ。ダイニングではランク戦の映像を見ることが出来る、専用の大型テレビとソファーがある。シャワー室もあるため、体をリフレッシュさせることも出来る。


 部屋の中をある程度見回り、玲奈たちは目を輝かせて喜んでいた。


「ほぇ~。本当に何でも揃っていて完璧な空間ですね」


 玲奈が優一に部屋の感想を伝える。優一は自分が褒められてかのように嬉しい表情を浮かべる。


「3人とも気に入ってくれたか?」


『もちろんです!』


「そいつは良かった。ちなみに今、水澤小隊の小隊ランクの通知が入ってきた。水澤小隊はCランクだ」


「小隊のランクってどう決められているんですか?」


 小隊ランクを知った玲奈は率直に疑問をぶつけた。


「小隊のランクも個人のランクと同じ。ランクを上げたいのなら小隊ランク戦をしてランクを上げるしかないね。結成時にCランク隊員が半分以上だから、小隊ランクもCだったんだろうね」


 軽く説明された内容を、玲奈は相づちを打って納得した表情を浮かべていた。


「あの~優一さん……」


 詩織があることに気づき、優一に質問をする。


「どうした?」


「私たち3人の小隊なのに個室が4つもある部屋を貰えたんですか? 3LDKの部屋は無いんですか?」


 それは玲奈と遼も気になっていた。個室を1つ無駄にするくらいなら、個室が1つ少ない部屋を与えてもらった方が無駄にはならない。他にも4人で小隊を結成している小隊が部屋を求めているなら、玲奈たちは部屋を明け渡さなければならない可能性がでてくる。


 優一は「あ!」と何かを思い出して、自身のナノマシンを操作し始めた。


「悪いね。俺自身、君たちにもう1つ用事があったことを忘れていたよ」


 そして玲奈の元にメッセージが届く。メッセージボックスを開き、内容を確認した玲奈は優一の顔を二度見した。


「え~ッ!!」


「どうした? 玲奈?」


 遼と詩織が玲奈に近づく。


「本気ですか? 優一さん?」


 優一は玲奈の問いに言葉で答えず、ピースサインで答えた。


「み、水澤小隊に入隊したいって本気ですか!?」


『え~ッ!!』


 玲奈の言葉を聞いた遼と詩織も驚きの声を上げた。



~おまけ~



玲奈「今日からここが私たちの住む場所か~」


詩織「楽しみだね」


玲奈と詩織が嬉しそうに話す中、遼1人は顔を強ばらせ、考え事をする。


遼(女子2人が住む部屋に俺が住んで良いのか? 間違いが起きたら、俺殺されるな……)


その時、優一が遼の肩に手を置く。


遼「?」


優一「期待してるぞ」


遼(何に!?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る