第5話目覚めの時
心拍は安定しているが、玲奈の意識……心がまだ戻っていなかった。
(私は遼と詩織と一緒にホープの医療施設でナノマシンの点検を受けていたはず。ちょっと危険なことをしたけどその後はいつも通り楽しく3人で話していたはずなのに。なんでここには……私しかいないの?)
玲奈は真っ暗な場所で辺りを見渡していた。周りには何もなく、誰もいなかった。
(暗い……寒い……私の体を……私の心を何かが壊そうとしている。どうして? なんで私?)
声を発することも出来ない。そして得体の知れない何かが恐怖となって、彼女を襲う。
(誰か……誰か助けて!! 助けて!! 助けてよ!!)
助けを求めるが当然周りには誰もいない。
(ねえ!! 動いてよ!! 私の腕!! 私の脚!! 私の体!! 私の心!! なんで……なんで動けないの? この得体の知れない何かから逃げることは出来ないの? ……嫌だ……いや!! 助けて!! 遼!! 詩織!! 近くにいるんでしょ!? 私を助けてよ!!)
動かない体とともに玲奈の心は壊れ始めていた。
(もう限界……)
抗うことを諦めかけた瞬間、玲奈の目の前に眩い光が放たれた。目を潰すような光ではなく、優しく……そしてどこか悲しげな光だった。
そしてその光の中から1人の男性がゆっくりと歩み出てきた。玲奈はその男性を見たことがある。しかし男性の名前を思い出せず、心の声で男性に話しかける。
(一体誰?)
「……今、お前を蝕んでいるものを消してやろう……さぁ、この手を掴んで生き返るか、それとも拒んで死んで行くかは自分で決めろ」
かすかに聞こえた声に、玲奈は言葉を返せなかった。
必死になって男性の手を掴もうと、動かない体を動かそうとするが、当たり前のように体は動かない。
(お願い……もう二度と動けない体になってもいいからあの人の手を掴むだけの力を……)
しかし、想いと裏腹に体は動いてくれなかった。だが、最後まで強く思った。
(生きたい!!)
すると玲奈の願いが聞こえていたかのように、男性は静かに目を閉じた。そして次に男性が目を開けた時には、右目は優しい橙色、左目は鋭く突き刺すような藍色に妖しく光り輝いていた。
すると今まで玲奈の自由を奪っていた謎の力が弱まり始め、周囲も真っ白な世界に変わり始めていた。
「さあ、水澤玲奈。今もう一度強く想うんだ」
男性の声に私は素早く反応した。少し体が動けるようになった玲奈はその想いを口に出した。
「私は……私はまだ死にたくない! 私はまだ生きたい!!」
すると白く染まっていた世界が光り輝き出して玲奈の視界を奪った。
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「ん? ……ここは?」
玲奈は意識がはっきりとした世界で目を覚ました。天井が少し低い部屋で、ベッドの上で横になっており、体には数多の点滴のチューブが繋がっていた。ベッドの左側に目を向けると、そこには目を丸くして驚いた表情を浮かべている遼と詩織が座っていた。
「れ……玲奈? ……玲奈! 今!」
「……わ……わああああぁぁぁぁ!! 玲奈ちゃんが! 玲奈ちゃんが!」
玲奈が少し動いたことによって詩織は泣きながら玲奈に抱きつき、遼は部屋を素早く出て行ってしまった。
「良かった……良かった……玲奈ちゃん」
「詩織……私は……どうして?」
玲奈は状況がうまく飲み込めなかった。
「ヒグッ……1ヶ月も……目を……ヒグッ……覚まさないから……もう……会えないかもって」
嗚咽しながら詩織が玲奈に話しかける。
「い……1か月?」
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しばらくすると、部屋を素早く出て行った遼が担当医と看護婦を連れて部屋に入ってきた。医師は玲奈の目にライトを当てたり、脈を測ったり、かなり細々とした検査を行った。検査を終えると看護婦がベッドを少し斜めに起き上がらせた。
「意識はしっかりしていますか?水澤さん?」
「は、はい」
玲奈は戸惑いながらも医師に返事をした。すると医師はにんまりと微笑んで、今に至るまでの説明をした。
「……いいですか? 落ち着いて聞いてください……あなたは約1ヶ月間、昏睡状態でした。ゴーストがこの世に出現するときの死風を大量に浴びたため、ナノマシンが正常に働かなくなり、急激に体調が崩れ、自分の生命を維持するのも難しい状態に陥りました……ただあなたは奇跡的に回復し、今に至ります」
「1か月……昏睡状態?」
「そうだよ。玲奈ちゃん。私と遼は絶対に玲奈ちゃんは帰ってくると信じて毎日ここに顔を出したんだよ」
詩織は涙を流していた目を擦りながら優しく玲奈に微笑んだ。
「ああ、本当に心配してたんだぞ。……まだ俺はお前から一本も取れてないのに勝ち逃げは絶対に許さないからな」
遼は照れ臭そうに玲奈から目を離し、横を向きながら言葉を述べる。玲奈は少し微笑んで反省の言葉をこぼす。
「……今回は自業自得だよ。ホープの仮内定をもらって私、少しありとあらゆる行動が軽はずみだったと思う。……名前は出てこないけど、私たちを搬送するときに駆けつけた隊員の言葉通りだよ。……規則を守らない者は組織には不向き」
そして玲奈はあることを思い出す。
「あ、そういえば! 2人とも、入隊試験は?」
遼と詩織は一瞬、呆け顔になるが、すぐに表情が変わる。
「……フフ」
「アハハハハ! お前って奴は……自分がそんな体になっても俺たちの入隊試験の方が心配か? アハハハハ!」
「え? 遼?」
玲奈は戸惑いながらも、クスクスと笑っている詩織の顔を真剣に見つめた。
「大丈夫、玲奈ちゃん。ほら」
詩織が制服の胸ポケットからある一枚の紙を取り出して玲奈に見せる。
「入隊……合格……通知って本当に!? 遼も?」
「当然」
詩織と同じく、遼も同じ入隊合格通知を玲奈に見せた。玲奈は自分が試験すら受けていないのに、自分の事のように嬉しく思い、笑う。
「でも……ごめんね。玲奈ちゃん。玲奈ちゃんが生死を彷徨っているのに私たちは試験を受けて……」
「ううん。それでいいよ。私は仕方なかったんだから。気にしなくていいよ」
「……でもまだ正規隊員ではないけどな。もう少し知識力を付けていればBランク上位に滑り込めていたのにな~」
「遼くん、玲奈ちゃんが試験受けれなかったのにそれは言っちゃダメ」
「あ……すまない玲奈」
「だから良いって。だけどおめでとう! 2人とも」
玲奈は2人を見つめ、ニッコリと笑顔を作った。すると2人は時計を見て静かに席から立ち上がった。
「じゃあ、行くね私たち」
「え?」
「これから正規隊員になるための講習だ。ここんとこ模擬実践訓練していないから座学は結構飽きているけど……」
「どうやら私たちが学校で習ってきた以上の事があるらしいの」
2人は軽く玲奈に手を振りゆっくりと病室から出ようとした。玲奈は2人に手を振り返し、深く息を吐いた。
「そうか……2人とも受かったんだ」
すると玲奈の心境を悟ったのか、医師と看護婦も静かに部屋を出て行く。
1人になった玲奈の目から涙がこみ上げてきて、ダムが崩壊したかのように嗚咽しながら涙を流した。
「……どうして……いつも……近くにいた……遼と……詩織が……私の知らない……遠いところに行ってしまった感じになるのは……どうして? ……生きてても……私には何の未来もなかったというの?」
「それは違うな」
玲奈は「はっ!」となり、カーテンの向こう側に目を向けた。
「水澤玲奈ちゃん。入るよ」
「……はい」
玲奈が返事をすると見つめていた先のカーテンが静かに開き、そこには見覚えのある男性がいた。
「目覚めがあまりよろしくなさそうだな」
「だ……大丈優一さん?」
~おまけ~
玲奈「ん? ……ここは?」
遼「れ……玲奈? ……玲奈! 今!」
詩織「……わ……わああああぁぁぁぁ!! 玲奈ちゃんが! 玲奈ちゃんが!」
玲奈が少し動いたことによって詩織は泣きながら玲奈に抱きつく……しかし。
玲奈「あだだだだだ!!!」
詩織が抱きついたことにより、点滴の針がさらに奥へと食い込む。
詩織「あ、ごめん」
遼「すみません~。カットで~」
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