第19話 『英雄の全身タイツ』

「きゃーーーーーー!!」


美海は

大声で悲鳴をあげた。

するとマネキンが光だし、その中から人影が現れた。

そこに立っているのは、身長180cmはあろう大柄で金髪の男の人だった。

体格の良い身体にピッチリ貼りついた青いタイツが、筋肉を一層強調していた。

左手を腰に当て、右手の拳を高々と振り上げている。

軽く微笑んだ口元からは、自信が伺えた。

男は振り上げた拳を下ろし、かけていた太ぶちのメガネを外した。


「私が来たからにはもう安心だ。さあ、安心な所に隠れて。」


外見に反して日本語だった。

男を見て、美海も郁美もポカンとしていた。

イークだけが笑を口元を隠し、笑を堪えていた。


「あの、何も起きていません。」


初対面の不審者に対して、はっきり意見を言える郁美を美海は感心した。

普段から自分より大人びている所を尊敬しているが、自分と郁美の違いはなんなのだろうか。素直に羨ましいと思った。


「そんな事はない。まだ見えていないだけで、世界の危機はすぐそこまで迫っている。外を見てごらん。」


男に促されて、二人は納屋の外に出た。

外に出て、二人は驚いた。いつものお姉さんの家の庭がなかったからである。

見た事もない高層ビルが建ち並んでいた。

振り返ってイークを見る。


「何これ。」


「今、世界の危機が迫っている。」


男は再び言った。

その時、外から大勢の人の悲鳴が聞こえた。

ビルの谷間から、体長50mはあろうかと言う巨大な怪獣が現れた。

全身火傷した様に爛れており、背中の棘から青い光が時々出ている。

二足歩行している後足は家より太く、対して前足は小さく物を掴むには不便そうだった。

怪獣が歩くたびに、地面が大きく揺れた。

二人は初めて見る巨大怪獣に足がすくみ動けなくなった。


「お、今回はこのパターンか。」


イークがニヤニヤしながら呟いた。


「じゃあ、ササッと頼むぜ。」


イークが友達に話しかける用に声をかける。


「了解した。」


男は前を見て答えた。

外に出た男は地面に落ちていた空き缶と鉄パイプを手に持つと、野球のバットとボールの様に高く打ち上げた。

うち上がった缶は空を飛んでいたカラスにぶつかった。

カラスはふらふらと飛び、報道用のドローンに追突。バランスを崩したドローンは、停車してあった原付きバイクに衝突した。

倒れた原付きバイクのタンクからガソリンが溢れる。

そのガソリン にドローンの火花が引火して、一気に燃え上がる。さらに近くに停車してあったガソリン運搬用にトラックに引火して大爆発を起した。

爆発で、近くにあった消防用の給水口が破損して、大量の水が噴出した。

爆発音に気を取られた怪獣が、近づいて来る。

数歩歩くと、怪獣の足元を通っている地下鉄の路線が沈没して、怪獣が頭まで地面に沈んだ。

穴を登ろうとするが、手が短すぎて這い上がることが出来ない。

怪獣が沈んだ大穴に水が流れ込み、数十分でみたされた。

呼吸が出来なくなった怪獣は呼吸困難で息絶えた。


「これで世界の危機は回避された。」


男が自信満々に言い放ち、納屋の扉を閉めた。


「え、戦わないの?」


郁美が男に問い掛けるが答えない。


「これがこいつの手段なんだよ。一見関係ない事が問題を解決しちまう。何て言うの?バタフライ効果戦法?」


美海はあっけにとられて何も言えなかった。


「それでは、また何かあれば私を呼ぶがいい。私はどんな時でも駆けつける。さらばだ。」


そう言うと、男の体が再び光りゆっくり消えた。

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