第4話 初めての魔法

目を開けると、ドアの向こうにお姉さんの家の門があった。

中に入ると、お姉さんが汗をかきながら草むしりをしていた。

駆け寄って挨拶をする。


「凄いんだよ、本当にここに繋がってたの。どこでも行けるの?私も出来るようになる?」


興奮しながら質問する美海を見て、お姉さんは笑った。


「練習すれば、少しづつ出来るようになるわよ。」


立ち上がり、手を叩きながら言いう。

お姉さんの、のんびりとした優し声が安心感を与えてくれる。


「じゃあ、早速はじめましょうか。」


美海は昨日の小屋の中に案内された。


「始める前に、約束があります。守れますか?」


お姉さんが、膝に手を立てて、視線を美雨の顔と同じ高さのにして聞いた。


「できるよ!!」


美海は元気に答えた。


「よろしい。じゃあ、1つ目。魔法は直ぐには覚えられません。出来るまで諦めないこと。2つ目。使える様になっても、誰かに自慢しないこと。3つ目。きちんと覚えていない魔法は、私と一緒にいる時しか使わないこと。4つ目。魔女は嘘をつかない事。聞かれた事には答えること。出来るかな?」


もっと厳しい掟の様な事を想像していたが、約束が簡単な事ばかりで安心した。

また、元気に返事をした。

お姉さんは、ずっとニコニコし続けている。


「じゃあ、早速始めましょうか。」


釜の前に立ち、お姉さんがお手本を見せる。

お姉さんによると、この魔法は基礎の基礎で、魔女になる人は皆この魔法から始めると言う。

澄んだ空気の濃い部分が、釜の中に溜まっている。

それを手ですくうと、釜から出た空気は漏れてどんどん薄くなってしまうので、濃いうちに作りたい形に加工して、固める。

固まった空気は、ガラスみたいな見た目をしてるが、落としても割れる事はなく、釜の中に入れると融けてしまう。と言う事だった。


「光をとじ込めるのはどうするの?」


「光を閉じ込めるのは別の魔法だから、これが出来るようになってからにしましょ。」


美海は、それから1時間くらい一緒に練習をした。

釜の中には、水面の様に膜が貼っていた。両手を入れてすくおうとするが、手が何かに触れた感触は無い。

手を引き抜いても、膜は全く動かなかった。

むきになって、手を出し入れしている姿を見て、お姉さんが思わず吹き出した。


「澄んだ空気はね、触っても逃げてしまうの。だから、空気から近づいて来てくれる様に、優しい気持ちで接しなきゃいけないのよ。あと、少しでも出来ないって思ってしまったら、逃げちゃうから、信じて。」


そう言うと、お姉さんは美海の後ろに立ち、両手を重ねて一緒に釜の中に入れた。


「わかる?」


美海は頷きました。

初めて玉をもらった時に感じた、冷たくないのにひんやりした感触が、お姉さんの手から伝わってきた。

そして、その感触は徐々に美海の手にも広がって来くる。


「さわれた。」


ぽつりと言うと、お姉さんが手を離し美海の手だけを釜の中に残した。


「気持ちいいでしょ。私、この感触が大好きなの。手を抜いてみて。」


美海が手を抜くと、周りに付いていた空気は水の様に滴る事は無く、少しづつ膨れて、薄くなって消えていった。


今日の練習はここまでにすると、お姉さんが言ったので、母屋でお茶を出してもらった。

部屋のなかには、色々な国の装飾品が飾られていた。

どれも見た事無いものばかりで、指を指して質問すると、お姉さんは丁寧に説明してくれた。


「お姉さん仕事は何をしているの?私邪魔してない?」


美海は少しだけ気にしていた事を聞きいた。


「大丈夫よ、私の仕事はいつでも出来るものだし、急ぐ用事もないから。それにね、魔女は弟子が出来たら、最優先に教えるものなの。」


弟子と言う言葉に、嬉しさと恥ずかしさを覚えて、照れ隠しに横を見る。

コルクボードにたくさんの写真が飾られているのが目にはいった。

そしてその中の1枚に目が止った。

写真は、少し古ぼけていて、セピア色をしていた。

お姉さんと、男の人がとても幸せそうに、肩を組んで笑っていた。


「これって、お姉さんの彼氏ですか?」


と、美海は笑ながら聞いた。


「昔付き合っていて、とても好きだったんだけど、一緒に居られなくなってしまったの。」


お姉さんが、テーブルの上に両ひじを立てて、ほっぺたを手の甲の上に置きながら、俯いて答えた。

美海は質問をした事をとても後悔した。せっかくの楽しい雰囲気が台無しだ。

ごめんなさいと言いたいのに、言葉に出すことができない。。

そんな美海を見て、お姉さんは言った。


「大丈夫よ、生きていればまた会えるし、嫌いになって別れたわけじゃないもの。だからそんな顔しないで。」


まだ、後悔はなくならないが、さっきより救われた気がした。


「そんな気持ちじゃ、澄んだな空気が寄って来てくれないぞ。」


「ごめんなさい。ありがとうございます。また、明日も来ていいですか?」


小さな声で聞く。

お姉さんはもちろんっと、笑顔で答えてくれた。

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