夢見る少女の夢は〜好きな人のお嫁さんになること!! でもこれって痛いの?

東雲三日月

第1話 夢見る少女

──いつから好きになったんだろう。


──ドキドキするような恋。


──ずと夢見ている幸せの結婚ハッピーエンド


 私も何時か可愛いお嫁さんになれるのかな!?



──放課後。


スマホから何時でも漫画が読めるのだから、今の時代はとても便利である。


無料で読むこともできる漫画アプリは漫画好きの私にとって本当に有難い。漫画を何冊も持ち歩くこともないのでとても楽だし、好きな時間に好きな場所で暇さえあれば簡単に漫画を楽しむことができる利点があるからだ。更に、漫画を実際に購入するよりもお得だったりする。


……少女漫画って尊い。


「ねえ、明美の将来の夢って何?」


帰りのHRが終わり、クラスメイトが帰宅し始める中、私はスマホを手にして漫画を読み始める。何時も直ぐには帰宅せず、親友の美穂 みほと一緒に教室に残って漫画を読んでから帰るのが日課なのだが、読み始めたばかりだというのに美穂が唐突に聞いてきた。


「んーとねぇ、やっぱり好きな人の可愛いお嫁さんかなぁ……えへへ」


なんでそんなことを突然聞いてきたのかさっぱりわからなかったが、顔を真っ赤にして照れながらも密かに秘密にしていた夢を答えた。


「なーに、少女漫画みたいなこと言ってるのよ!」


「えっ駄目かなぁ?」


 何だろうこの空気間、自分は真剣に好きな人のお嫁さんになりたいと思っているというのに……高三である私の此の答えは痛いのだろうか!?


「……まぁ駄目ってわけじゃ無いけど……価値観は人それぞれなんだしね」


佐藤明美 さとうあけみの夢は幸せな結婚 ハッピーエンドをすること。それは子供の頃からの夢である。幼少期、将来の夢を聞かれると、女の子は大抵ケーキ屋さん、お花屋さん、幼稚園の先生、アイドル、なんかが定番だった気がする。そんな中、『お嫁さん』と答える人は少なかった記憶がある。


小さな子供ならお嫁さんになりたいと言っても可愛いのかもしれないけど、私はもう高校生……憧れてるなんて情けないことなのかもしれない。でも、好きな人と家庭をつくり子供を授かり、一生尽くせるなんて凄く幸せな事だと思うのだけど……。


「ねぇ、明美はさっきのHRで先生の話ちゃんと聞いてた?」


「んー!? なんの事?」


「全くもう……ちっとも聞いてないんでしょ! 進路の希望調査票提出してないの私達だけなんだって……今日中に記入して提出してから帰ることって言われたじゃ無い」


「あははっ、そうだった……えっとこれのことか……」


鞄の中から一枚の用紙を取り出して机の上に置くと、置いた途端直ぐに櫻井美穂 さくらいみほが覗き込んできた。


「そうよ、これよ……これこれ、だから参考に聞いて見たのに……って、明美、第一希望に『 好きな人のお嫁さん』ってもう書いてる……」


「……えへへ」


「明美は夢見すぎだよぉ、進学する気は全然無いの?」


「うーん、進学ねぇ……」


そういえば、今迄の人生で進学することなんて一度も考えたことが無かった。私の将来の夢といったら、『 お嫁さん』以外考えたことが無いのだから。


「ちょっと……考えた事ないって、それはそれである意味凄すぎるわね。呑気というかなんというか……普通は考える物なのよ」


何時も一緒にいるくせに、何故か親友である美穂に引かれるように呆れられた。


「そう言えば、明美は未だピアノ習ってるんだよね。何で未だ習ってるの?」


「うん、其れはピアノが好きだからかな。弾けない曲が弾けた時の達成感が好きだってのもあるし、何より音に癒されるのよね」


「そうなんだ。なら、明美はピアノ上手何だし、その特技を活かしてピアノの先生とか、幼稚園や学校の先生になったら良いのに……それで、その先にお嫁さんで良いんじゃないの!?」


「えへへ……その先ね。でも自信ないな! テストの点数やばいもん。大学に受かる気しないよ」


ピアノが出来る人は勉強が出来るイメージがあるのだろうけど、私は違った。赤点ギリギリ回避してる教科だってあったりするのだ。


美穂に将来のことを聞くと、将来の夢は小学校の先生だという。今の今迄そんなこと聞いたこともなかったのでこのことは今回初めて知ることとなった。


「美穂は将来のこと決まっていたなら、進路の希望調査票早く提出すれば良かったのに?」


「うん……でもちょっと迷っていたからね。こんな私に出来るかなって。やってもないのに可笑しいよね! てへへ」


「美穂なら良い先生に絶対慣れるよ! 私が保証する」


「ふふふっ、ありがとう! なら、明美も一緒に小学校の先生目指そうよ。仲間が居ると頑張れるもん」


「もう、何でそうなるのよ!」


でも、未だ今からでも間に合うのかな? こんな私でも実現させることが出来るのか不安でいっぱいだった。


教室の時計を見るともう十七時になろうとしていた。もうこんな時間だったなんて全然気付かなかった。私達はずっと用紙を提出することなく話し合っていたのだ。


早く提出しに行かないと行けなかった。でも、最初に書いた夢が捨てられない。消しゴムを片手に消せないでいた。


「ねぇ、何でさっさと第一希望のところ消さないのよ! やっぱり明美はお嫁さんが良いわけ?」


「えへへ……」


「もしかして、明美には好きな人が居るんでしょ!?」


美穂に聞かれて、私は照れながらもうんと頷いた。隠したって仕方が無いと思った ったからだ。


「もしかして、もしかして何だけど、明美が好きな人って此クラスの拓也 たくや君でしょ?」


「えへへ……正解だよ! 良く分かったね」


美穂は直ぐに私の好きな人を言い当ててしまった。私が好きな相手は新井拓也あらいたくや 。誰にでも優しくて、スポーツも勉強もできるイケメン。絶対分かるわけないだろうと思っていたけど、一発目に当ててしまうのだから大したもんである。


「だって見てれば分かるよ! 拓也と話す時だけ明美の表情何時もと違うもん。それに、イケメンすぎるからなのか、無駄に優しいからなのか女子からすっごいモテモテじゃん。明美のライバルって多そうだね」


「えへへ……そ、そうだね。ライバルは多いかもしれないね」


「じゃぁさ、明美今度告白してみたら良いじゃん!?」


「えへへ……いきなり告白って……む、無理だよー無理に決まってる!」


「嫌……諦めるなよ! 拓也のこと好きなんでしょ。それなら、告白してみなきゃ意味無いじゃん。モテモテのくせに、未だ彼女いないんだよ! だから、今がチャンス何だよ絶対に」


「えへへ……そ、そうかもしれないけど。それなら恋テクでも教えてよ。美穂はめっちゃモテるし、彼氏も居るんだしさ」


そんな会話をしていると、二人しかいない教室に人が入って来た。それもまさかの拓也である。


「えっと、話聞かれたかな?」


私は不安になって美穂に確認する。


「大丈夫なんじゃない! ほら、拓也は今来たばっかりみたいだし……」


拓也は急いで走ってきたのだろう、息遣いがとても荒い。


「ぐはぁっ、何でお前達二人未だ残ってるんだよ! 驚かすなよ。びっくりしただろが……」


「別に教室に居ただけなんだから驚かすなんてしてないわよ。ねぇ明美?」


「あっ、うん……えへへ」


「ところで拓也は何しに此処に来たわけ!? 私達はね、進路希望調査票を未だ提出してないから、残って書いてるのよ!」


美穂が私達が何故残ってるかの、状況の説明をする。


「げっ……お前らまだ提出していないのかよ。俺は単なる忘れ物取りに来たんだよ! 一週間後に中間テストがあるだろ。だから勉強しないと駄目だからな」


拓也は何時もクラスで一番頭が良かった。やっぱりきちんと勉強をしているということなのだろう。


「あのさ、ちょっとお願いがあるんだけど、私達に勉強教えてくれない?」


美穂が唐突に聞いてくれている。でも、拓也は他の子と勉強する約束でもしてるんじゃないだろうか? 今日も昼休みの時、女子達が教えてと言っていたような……。


「えっ、勉強……美穂は頭良いんじゃなかったか?」


「うん、私と言うよりは、教えて欲しいのは明美なんだけどね……私は彼氏と勉強する約束してるから残念だけど教えてあげられないのよね」


美穂は私を見てウインクしてきた。私が拓也に近づく為に美穂が声を掛けてくれている。


そう言われて、驚いた表情をしながら也は明美のことを見つめる。


「えへへ……」


「ん? 明美が勉強だと……本気かよ」


そんなに驚愕しなくてもいいんじゃないかと思う程、拓也に驚かれている。どんだけ私は勉強が似合わない女の子なんだろうか?


美穂はこのことを知らないけれど、拓也とは親同士が仲良くて、小学生の低学年時代は拓也のお母さんが仕事で帰り後遅かった時、良く家に預けられていた。


中学からはクラスも違い、話す機会も少なくなり同じ高校に入学してからも話す機会は無かったのに、三年生になってから一緒のクラスになった途端、急に意識し始めるようになった。


昔はあんなに仲良くて、たくちゃんと呼んでいた。髪が長かったせいか、女の子みたいな見た目だったから凄く可愛くて姉妹なんじゃないかって感じで接していたのに、いつの間にか私より背も高くて、声も変わって、髪も短くなったせいか、男らしくなっている。


昔は学校でたくちゃんの周りに女の子が集まっていても何も気にならなかったのに、今は凄く気になって仕方がない。取られるんじゃないかって勝手に思ってしまうからだ。そうやって気になるせいで、休み時間チラチラ見てしまう。それは授業中も……だから、最近は授業に集中出来ないでいた。


……ん? 何だろうこの感じは? 驚かれてからずっと話しかけてこない。ずっと下を向いて黙り込んでいる。私は気まづい雰囲気を感じ取る……やばい、きっと断られる……この私に勉強を教えるだなんて有り得ないよね。どうしよう……この場から逃げてしまいたい。


美穂を見ると、どんどん話せって手で合図を送ってくるのが分かった。そうだ、逃げちゃダメ何だ! これは恋のチャンスなんだから。


「う、うん……わ、私進学しようかなって……学校の先生になれたら良いなって思ってるんだけど、勉強が苦手でさ。それで分からないとこ教えて貰えないかなって!」


「……」


何も言ってくれない! 駄目なら駄目だと断ってくれたら良いのに。そう、少女漫画とは違って現実は甘くない。そんなこと知ってるんだからね。


「……良いよ。こんな俺で良ければ教えてあげても。まぁ教え方は上手くないかもしれないからあんまり期待すんなよな」


「えっ、本当に……拓也ありがとう……えへへ」


「じゃぁ、明日の放課後図書室で勉強するからな。いいか、スマホで漫画読んだりなんかしないんだぞ」


拓也は、普段私が漫画読んでいることを何故か知っていた。私の事なんて何も興味もないし、何も知らないだろうと思っていたのに。


「じゃぁ、俺は今日用事あるから先に帰るわ……お二人さんまた明日ね」


そう言って拓也は駆け足で居なくなった。


「ふふふっ、明美良かったじゃん……」


「うん、明美ありがとうね……えへへ」


この日、十八近くになってから職員室に用紙を提出しに行くと、担任からは私だけやっぱり驚かれた。


「佐藤さん今度の中間テストしっかり頑張って下さいね」


ドアを出る間際、何故か私だけ一言われた。



──次の日の放課後


拓也の将来の希望は大学に進学すること。そして将来の夢は、まさかの私と同じ学校の先生になることらしい。だから、同じ夢を持った私に勉強を教えてくれると言ってくれたのだと、図書室で勉強を始める前に教えてくれた。


でも、私の本当の夢は先生になることでは無い! 本当の夢はその先にある好きな人のお嫁さんだから……。


「 はい、じゃぁ明美の苦手な数学教えるから、ワーク出して準備してくれる」


「えっ、何で私が苦手な教科知ってるの? ずっと話す機会なんて無かったから、言ったことないよね!」


「良いだろ……んな事!」


「言い訳無いでしょ……何で拓也が知ってんのよ」


「はいはい、美穂から教えて貰いました。別に俺が聞いた訳じゃ無いんだけど、美穂が色々教えてくれたんだ……お前のこと。しかも最初に書いた希望調査票、お嫁さん何だってな。お前は子供かよ……昔と全然変わってないのな」


「もう……やめてよ! そんなに笑わないでよ」


拓也はめちゃくちゃ笑ったのだ。酷い、酷すぎるよ! 笑う拓也も教えちゃう美穂も………どっちも酷すぎる。


「で、好きな人いるらしいじゃん。明美の好きな人って誰?」


「えへへ……言わないわよそんな事……は、だってとっても恥ずかしいもん」


「よーし、それなら明美が数学のテストで百点とったら言わなくて良いことにしてあげよう。それ以外の点数は教えること!」


「はぁ……!? 何それ……私が苦手な数学で百点取るなんて出来っこないの分かってるでしょ。そんなの絶対無理に決まってるじゃない」


「さぁ、どーだかね、やって見なきゃ分かん無いじゃん。また逃げちゃうの?」


「に、逃げないわよ! 分かった。絶対百点取るんだから。そしたら絶対教えてあげないんだからね。拓也、手を抜かずちゃんと私に勉強教えなさいよ!」


こうして放課後になると拓也と図書室で勉強する日々が始まってから一週間後、ようやくテスト当日の朝を迎える。


絶対百点取るんだ! という思いを抱いて私は試験を受けた。


結果は百点には届かず……七十八点と惨敗してしまった。


「よーし、覚悟は出来てるな。明美の好きな人聞かせてもらおうか!?」


いつも通り放課後の図書室……私は点数が悪かったら図書室で好きな人を教えると拓也と約束していたのだ。そんな私に、美穂は告白のチャンス到来と言って帰ってしまった。


もう、何でこんな事になるのよ! ちょっとイラッとしながら恥ずかしそうに答える私……。


「……好きな人は……やっぱり秘密。拓也勉強教えてくれてありがとう。お陰でどれも良い点取ることが出来ました……えへへ。じゃぁ私はもう帰るからね!」


「オイ、コラッ! 秘密だなんてずるいぞ明美……それに一人で先に帰んなよ!」


そう言うと、拓也の腕を掴んで引き寄せた。


──ドキドキと高鳴る胸の鼓動。


キスでもされるのかと思って期待したけど、それは無かった。


「あのさ、明美めっちゃ美人になったな! 今度……今年の夏何だけど一緒に地元の上尾市でやる花火見大会見に行かないか」


突然誘われた! 拓也から誘ってくるなんて久しぶり……昔は遊ぶ約束を良くしてたけど……。


拓也は他の子と行ったりしないのかな?

私なんかで良いの?


「他の人とはまだ約束してないから気にすんな!」


まだ何も聞いてもいないのに、拓也がボソッと呟いた。


「……うん、別にいいけど……えへへ」


「良かった。なら今年の夏は一緒に行こうぜ。 明美と行くの楽しみだな!」


「うん、私もたっくんと行くの楽しみだな……えへへ」


あっやばい……たっくんなんて言っちゃった。思わず照れてしまって拓也の顔が良く見えない。それでも、そっと頭を上げて拓也を見ると、何でか拓也も照れているのが分かった。


この日、私は達也と一緒に帰宅した。こうやって一緒に歩くのも久しぶり……昔は何も感じず平気だったのに、今は凄い照れながら隣を歩く。


歩いて駅まで行く途中、不意に拓也が手を握ってきた。


「別にいいだろ!」


思わず驚いて戸惑う私の耳元で拓也はそう囁く。


「……うん、えへへ」


拓也は知ってかどうか……恋人繋ぎをしてきたけど、私は彼のことが好きだから受け入れる。


もしかしたら両想いなのかな私達……!? そう思ったけど、自分からは何も聞けないまま……二人は歩いて駅まで行く。


「ねえ、あ、あのさ、お願いがあるんだけど、これからも勉強教えてくれない? 次は期末テストあるし」


「おっけー、明美が勉強教えて欲しいなら喜んで教えてあげるよ。俺に遠慮なんかするな! また明日からも図書室集合だからな」


「……えへへ……はいお願いします」


「よーし、次こそは数学で百点じゃ無かったら、俺に遠慮せず好きな人絶対教えろよな!」


「うん、わかった……えへへ……それなら……」


──駅の改札口付近、私は拓也と向き合うと、人目も気にせず拓也の唇に自分の唇を寄せて奪った。


「えへへ……遠慮しないで良いんだよね! さっき秘密ってしたけど、好きなのはたっくんだよ」


「……」


やっぱり私引かれたよね。こんないきなり人前でキスなんかして……謝ろう! 謝んなくちゃ。


「……明美」


「ん!? な、何?」


拓也がこっちを見つめている。


──ドキン。ドキン。


やばい、見つめられたらドキドキしちゃうよ! でも、絶対嫌われちゃった。怒られちゃうんだよね私。


──違った。


今度は、拓也が私の唇に自分の唇を寄せて奪った。


「俺も明美のことが好きだ!」


「えっ!」


「昔は友達って感じだったけど、今は明美のことを女の子として見てる」


──かぁぁ……っ


「ほら、俺で照れてるんだろ! これから俺と恋をはじめようぜ。お前の本当の夢、お嫁さんになることなんだろ」


「ええぇ……っ何で知ってるのよ?」


拓也は、私と美穂が居残りしていた教室に忘れ物を取りに来たあの日、私達の話を聞いていたらしい。


「俺が本気出すから、始まって良いよな! 安心して、明美は俺が絶対幸せにする。だから今日から俺のものな。これやるから肌身離さずずっとつけてて」


──拓也から小さな箱を手渡された。私は中をそっとあける。


「えっ、これってピアスじゃん……可愛い」


「それ、明美にあげる」


穴開けてんの知ってるからって拓也が私にくれたピアス。拓也は勉強を教えてる最中に、私の耳に気づいたらしい。


「これから沢山思い出作ってこうぜ! でも、明日も勉強だからな! 手加減しないぞ」


「うん、わかったよ。拓也」


こうして、私達の物語が始まることになったのでした……えへへ
















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