第20話王子が温室のお茶会にご出席のようです!?
刹那、エラは苦笑気味に視線を下げ、
「これは、この場限りの秘密事としていただけると嬉しいのですが……。実は近頃、夜会に熱心に通い詰めていらっしゃるヴィセルフ様を、両親が訝しんでおりまして」
「……え?」
「射止めたいお相手が、出来たのではないかと」
「なっ――!」
なんだってえええええええええ!!!!!!?????
(ちがっ、違うんですエラさま!!!!!!)
あの人が夜会に顔を出すようになったのは!!
花をつけるのがなんか楽しくなっちゃったからでして!!
特定の誰かに会いに行っているとかそーゆーのじゃないんです……っ!!!!
なんならエラさまの反応をひっそりこっそり楽しんでる無自覚むっつりツンデレですし!!!!!!
(って言いたいところだけど、私が言っちゃダメだよなあこれは……!)
うっかりヴィセルフの耳に入って、恥ずかしがったヴィセルフのツンがデレに変わる前に拗らせちゃったら最悪だもんね……!
「そのっ、エラ様! 日々身近でお世話しております私が思いますに、それは杞憂かと……! もし本当にヴィセルフ様が別のお相手に熱中しておいでなら、夜会にはお一人でご出席されるでしょうし――」
「ありがとうございます、ティナ。……正直に申し上げますと、ヴィセルフ様のお心について、はっきりさせようとは思っていないのです」
エラは「ですが」と肩を竦め、
「ヴィセルフ様がお言葉にしない以上、わたくしはあの方の婚約者に変わりありません。ですので少し、これよりも王城への訪問を増やせたなら、両親も安心できるのではないかと考えておりまして……」
エラ……!
なんてご両親思いのいい子なの……っ!
(うう、私の作戦がきっかけでそんな事になってたなんて……っ! ほんとーに申し訳ない!!)
確かにヴィセルフが一人で夜会に顔を出す日もあるけれど、基本的にそのほとんどはエラと一緒だ。
おまけに明らかにエラを意識した花を飾っているしで、かんっぜんに安心していた……!
(夜会通いのきっかけを作っちゃった張本人は私だし、ここはヴィセルフのためにも、しっかりアフターフォローも務めてみせる!)
「お任せください、エラ様!」
私は決意に自身の胸元に手を当て、
「エラ様のご訪問時には、必ずや私がおもてなしさせていただきます!」
力強く言い切った私に、エラはそよ風香る美しい笑みを浮かべ、
「こんなにも次が待ち遠しく、心躍るのは初めてです。ありがとうございます、ティナ」
◆◆◆
エラと約束を交わしてから、あっという間に二週間が過ぎた。
あれからエラは、三から四日おきに温室のお茶会にやってきている。
先日のチュロスで「やっと……! 俺たちのお菓子がエラ様に……!」と泣いて喜んでいた料理人さんたちは、それから更に張り切っていて、次々と私の提案するレシピの再現化を成功させてくれた。
レモン入りのメレンゲクッキーや、紅茶のアフォガードを添えたフレンチトースト。
それから野菜やナッツを入れた蒸し料理ではない、デザートとしてのカスタードプリン。
本日のお茶会にと用意したのは、滑らかな舌触りと優しい甘さが落ち着くスイートポテトパイだ。
傍らには生クリームと、エラの好きなバニラアイスを添えてもらう。
「エラ、今日も喜んでくれるかなあ」
くりっくりの目を更に丸めて「美味しいです……!」と頬を上気させる姿が思い浮かび、つい私の頬も緩む。
近頃のエラは、以前よりも表情が柔らかくなった。
特にその笑顔は、前世のゲームで見たそれよりも数千倍可愛らしい。
(それだけ普段は自分を抑え込んでいるってことだよねえ)
心のまま自由に笑うこともままならないなんて……うう、可哀想なエラ……!
「よし、今日もしっかりおもてなしして、リラックスしてもらうぞ!」
エラの到着まであと一時間。
そろそろ温室の準備に――。
「随分楽しそうだな、ティナ」
「!? ヴィ、ヴィセルフさま……!?」
温室に続く回廊を曲がった刹那、行き先を塞ぐようにして腕を組む、壁に右肩を預けたヴィセルフが。
(あれ!? この時間って音楽の講義中じゃ……!?)
ヴィセルフは緋色の瞳をにぃと細め、
「ここのところ、アイツが茶を飲みに来る日は妙に機嫌がいいな」
「へ!? そ、そうでございますでしょうか?」
「ああ。朝からまるで、ワインをくすねたヒイヨドリが転がり込んできてんじゃねえかって程にな」
ヒイヨドリというのは、花の蜜や果実を好む小型の鳥で、王城周辺の木によく巣を作っている国鳥だ。
(そ、そんなに浮かれてたかな……)
まあでも実際、エラとのお茶会は毎回楽しいし、予定のある日は前日からお菓子を仕込んでいたりするけども……。
「今日は俺も出る」
「…………はい?」
い、今なんか、酔っ払いのヒイヨドリも卒倒な幻聴が聞こえたような――。
「聞こえなかったのか。今日は俺も、この後のお茶会に出るって言っているんだ」
「……え、えええええええ!!!!!!?????」
「…………うるせえ」
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