第11話 ブルー・あいず

少年が老婆をじっと見つめます。別段のこともなく見つめています。ただじっと見つめるだけなのです。

「なんぞ、用かい? 坊や。この婆に、聞きたいことでもあるのかい?」

 沈黙に耐えかねたように、老婆が少年に声をかけました。

「どうせ、親に言われてきたんじゃろ。お宝の在処を聞き出してこいとでも、言われたんじゃろ。子どもになら口を滑らすかもしれんとな」


 老婆が少年の目をのぞき込みます。少年の目は、澄んでいました。どこまでも深く深く澄んでいました。老婆の強い視線をただ黙って受け止めます。そして、どんどんどんどんと吸い込んでいきます。

 いつの間にかその場に老婆が居ません。いえ老婆自身が、少年の目の中に吸い込まれてしまったような錯覚に囚われてしまったのです。


 以後、老婆の口が重くなりました。

 家々で歓待を受けても、無表情な老婆です。

 老婆の前に並べられたご馳走を見ても、ニコリともしません。そして、一膳の飯と一杯の汁物をすすって終わりにします。ご馳走には、一切手を付けなくなりました。

「十分じゃ、もう十分じゃ」

 と、小声で言うのです。

 まるで呪文のごとくに唱えるだけです。


 これでわたしの話はおしまいです。

 えっ? この老婆が、わたしが話を聞いた女性ではないのかと、思われましたか。

 鋭いですね、あなたは。ですが、わたしにも分かりません。たまたま立ち寄った被災地に住む女性にお話を伺っただけですので。

━━━━━━・━━━━━━・━━━━━━

この作品は、六つの章から成り立っています。

それぞれに独立した作品ではありますが、一つのブルーなコアが、流れています。

途中で気付かれた方は、お祝い申し上げます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブルーの住人 第1章 ブルー・ぼーん としひろ @toshi-reiwa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る