第9話 一子相伝
長患いで苦しんだおなかの父親が、とうとう亡くなりました。伏せってから十年の余でした。毎日のように「すまんのお、すまんのお」と男に手を合わせて、感謝の意を伝えます。その手をしっかりと握りながら「わたしの方こそ命を助けて頂いたのです」と、応えます。
その日は長く降り続いた雨が止み、久しぶりのお日様が出たと言います。
白装束に身を包んだ男を先頭に山の中腹を目指して、葬列がつづきます。時折鳴る鈴の音が山々に響き渡ると、すすりなく声が葬列の中から出ます。
気丈にしていたおなかもまた、男に抱きかかえられながら何とか歩いて行きました。そしてその夜に、男の口から平家再興のための軍資金埋蔵の話が出ました。「このことは一子相伝とし、たとえ配偶者であっても漏らしてはならぬ」と厳命したのです。
さらには、子に関しても「男であれ女であれ、第一子誕生の後は一切子作りをしてはならぬ。このことは子々孫々まで伝えよ」とも厳命したのです。確かにその老婆も第一子であり、老婆の子も孫もまた、一人だったということです。
軍資金の埋蔵場所を記した書き物は一切なく、その軍資金を見た者もいないと言います。さらに不思議なことは、その軍資金が一度として遣われようとした形跡がないことです。
徳川埋蔵金という噂と同様に、この平家埋蔵金もまた噂として伝わっているーいえ、こちらはこの村だけの、この老婆だけが知る事なのです。それでも村人は、疑心暗鬼ながらも老婆を世話しています。
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