第7話 再会
「……よく来れたものだな」
「ん?」
オリアーナが何をしたかはさておきとして、あんなに人から避けられ続け、話してくれると思えば好意がなくて彼のように言われる。
彼女が自殺志願者な時点でなんだか根深いものを抱えてそうだ。
「お前のせいでオルネッラは……」
「……」
誰だろう。
しまった、新しいキャラクター名はゲーム内で出てきてないし、そもそも目の前のイケメンなモブ男も知らない。しかも最初に会った令嬢と同じで、オリアーナと因縁がありそうなタイプだ。
「ふん、いつものだんまりか」
「……」
クールキャラもたくさんジャンルがあるけど、オリアーナは無口のようだ。よかった、何から話せばいいのか困っていたから。
「お前のせいでオルネッラは目を覚まさない」
「……オルネッラ」
目つき厳しい彼は、私の方にゆっくり歩きながら静かに話してくれた。ありがたい、このまま全て私に説明してほしい。
ひとまずオルネッラが死んでないことは幸いだ。危うくオリアーナに殺人の嫌疑がかかるとこだった。
「姉を差し置いて生きているなんて図々しいとは思わないのか? よく平然とした顔をしていられるものだ」
「貴方にはそう見える?」
「まさか違うと言うんじゃないだろうな?」
よし、クールキャラに見えているらしい。
私の演技力もなかなかでは。さっきは自信をなくしかけたけど、なんだ案外いけてるんじゃないだろうか。
「オルネッラと違い、お前は陰気で人望もない。学も家業もオルネッラに劣るお前が、どうして生き残っている。誰しもがオルネッラの方がと思うだろう」
「……貴方」
「オルネッラが目覚めなくなって十年も経つというのに、お前は何もせず、ただ堕落した生活を送っているだけだ。そうやってのうのうとしている様は不快極まりない、身を弁えろ」
「貴方、オルネッラの事、好きなの?」
「な?!」
「今の感じだとオルネッラの事好きなのかなって」
「な、あ、」
思っていた以上のいい反応。
図星ですと言わんばかりに表情が変わる。耳から首にかけて赤く染まって目が潤み、口調は先程と違ってしどろもどろになった。
オリアーナを責めてる割に、妙に滲むオルネッラへの好意を私が見過ごすわけがない。恋バナはいくつになってもおいしいです。
「へえ、好きなんだ」
「う、煩い!」
「告白したの?」
「っ! な、何故それをお前に言わなければならない!」
「あ、言ってないの」
「黙れ!」
わかりやすいぞ、これは選択肢出た時、簡単にクリアできるタイプのキャラだ。
彼の説明からするに十年眠っているオルネッラに告白できずに時を過ごしていたとすれば、相当こじらせてしまったことになる。
些か面倒なことになってそうだな。彼の中でオルネッラが美化されてる可能性もあるし。
「なんで言わなかったの」
「な、あ、いや、それはその、そういう機会がなかっただけで」
「機会ね……」
だからなんだと彼がまた力強くツンツンし始めた。
もう私の中で彼はツンデレだ、わかりやすい典型的なツンデレキャラ。可愛いし、つい突っ込んで話をしたくなる。
「好きだと思った時が、その時なんじゃないの?」
「は、何を」
「そう思った時がその時だよ。今その瞬間に言わなくてどうするの」
「何を言うかと思えば、」
「そんなんだからオルネッラに言えずに十年も経ってるんじゃないの?」
「な、」
また図星。
やれやれ。ツンデレでこじらせ系だと、選択肢はわかりやすくてもストーリーが長期戦になったりするんだから。折角素直さがあるなら、そこを伸ばしたほうがルートクリアしやすいんだけど。
「そんなにオルネッラが好きなら会いに行けば?」
「え?」
「毎日会えばいいんじゃない? その度に好きだって言えばいいじゃない」
「何を言って」
「毎日告白してればオルネッラ起きるかもよ」
「そんなことは、」
「やったことないんだから、ないとは言えないよね」
それに寝ている相手なら練習みたいなものだよ、と付け加える。
何度も繰り返ししていれば、それは自身の経験になっていく。こことても大事。
「ぐ、」
「それに毎日告白の練習してたら、その時って瞬間に言えるよ」
「何を馬鹿なことを」
「貴方、何もしてないよね?」
そう言えば彼はぐっとたじろいだ。思うところがあるのかもしれない。こういう時は正論を敢えて言ってみるとしよう。荒療治になるけど、このタイプに効きそうな気がする。
「オリアーナを責める前に、貴方が最善を尽くしなよ。何もしないまま、他人に求めるだけ求めるのは不毛だから」
「な、なんなんだ……いつもはただ黙っているだけなのに」
「……んん?」
いけない、クールキャラだった。
すっかり恋バナに夢中になってキャラ崩壊してたわ。
今から修正しよう。なるたけ無表情、寡黙ぎみでより平坦に。
「……」
「なんだ、先程の勢いはなくなったか」
「……」
「ふん」
何も言わなくなった私を見て、彼はきびすを返し去っていく。
なかなか面白い子だったな。オリアーナにもう少し好意があれば、毎日かまいにいくぐらい典型的なツンデレでよいのだけど。
「オリアーナ!」
彼の姿が見えなくなってから、また別の声がかかった。
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