第51話「カフェにて①」

「いやー、急に来てもらって悪いね。電話でもよかったのに」

「いえ、直接会って話したい事があったので」


 俺は今、町中にあるカフェに来ていた。


 床やテーブルの木目が目に優しく、店内は木材を基調とした作りになっており、採光が広くとられて自然色豊かな空間になっている。調度品も手作りの一品物が多く、趣があり、俺が普段行く、ド○ールやミ○ドなんかとは違う、こだわりを感じさせた。


 とにかく居心地がいいカフェだ。


 やっぱり男前はいい店知っているんだなとそんな事を考えてしまう。


 感じのよさそうな中年の女性がメニューをとりにきたので、ホットコーヒーを二つ注文。一応、はちみつ柚子茶を探したが、なかったので断念。佐伯さんにはデザートをすすめられるが、遠慮する。多分おごってくれるような気がするのだが、ほとんど 初対面に近い青年の好意に甘える訳にもいかない。


「ここはさ、ほらテラスにいくつか植物があるだろう? 一部食材も取り扱っていて、仕入れの物も含めて無農薬なんだ。だから基本食材の味が生きていて、とても美味しい。ランチもこの店はやってるから、今度、食べに来てみるといいよ」


 そういって微笑む佐伯さんはさわやかさに包まれている。多少顔の出来がよくても、人間が腐っている吉崎なんかには到底出来ない種類の笑顔だった。


「なんか詳しいですね」

「ああ、料理をするのは好きだし、僕はライターとして、こういった店に取材に来ているからね。ここも仕事でみつけた店の一つさ。居心地がいいから、僕もたまに利用させてもらってる」


 そういって先ほどの女性に手をふる佐伯さん。

 それだけの行動で、女性の好感度がぐんぐんと上がっていきそうだ。


 そういえば神谷の昼ご飯この人が作っているんだっけ。

 しかし、神谷家の人間はスペックが高い。凡人としては嫌になるな。


 しばらく取り留めのない話になり、その間に注文したホットコーヒーがきた。暖かい湯気とともにコーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。佐伯さんは砂糖を一さし入れて、ゆっくりと味わうようにカップを傾ける。


 俺も同じように砂糖を一さじ入れ、味わう。

 苦味はあるのにしつこくはなく後味がいい。


 そうして佐伯さんはカップを静かに置き、本題に入り始めた。


「かえでの事で孝也君に相談があるんだ」

「はい、俺もそうです」


 佐伯さんと俺との共通の話題といえば、それしかない。

 問題はどういう内容かという事だ。


「最近ね、かえでに元気がない」


 両手を組み合わせ、ゆっくりと佐伯さんはそんな事を話し出した。


「あの子は特に自分から話す子ではないけれど、態度にはでやすいからね。ちょっと前までは一時に比べたら機嫌もよかったんだよ。そうだ。元気がなくなる、ちょうど前日なんかはすごく機嫌がよかったよ。あれだけ楽しそうなあの子を見たのは随分久しぶりかな」


 ああ、それは多分、KKMを撲滅したからだろう。散々、手を焼かされたのだから、喜びも一塩だと思う。


「それもこれも君のおかげだと俺は思っている」


 そう思っていた俺に対して、意外な言葉を佐伯さんは発した。


「……俺が、ですか?」

「ああ、学校での話となると、大概というか、ほとんど君の話だよ。……まあ、内容については伏せておくけどね」


 そういってハハハと笑う佐伯さん。


「文句ばかりいっているんでしょう、どうせ」

「否定はしないけど、そうだな、でも君の話は彼女にとって楽しそうにはみえたね」


 そりゃー、あれだけ好き勝手殴り倒してくれたら、いいストレス解消になって楽しいだろうさ。……そういや本人にも同じような事をいわれたっけな。

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