第26話「爆弾発言」

「孝也」


 翌日、最後通告をつげに吉崎がやってきた。

 俺は昨日の自分の失敗に心底、落ち込んでいるところなので、ぜひとも労わってもらいところなのに、とどめをさしにきたのだ。


「……なんか用か」

「昨日、遊びにいって、予定通り告白してきたぜ」


 ただ、吉崎の事なので、なにか昨日のうちにやらかして、着信拒否状態に陥っている可能性も捨てきれない。他人任せに結果を待つのは本意ではないが、この際、仕方ない。振られとけ、吉崎。それがお前のクオリティだ。


「結果はな……」


 ごくりと自然とのどが鳴る。

 吉崎は腕を組み、中々言い出さず、溜めを作る。

 くそっ、早くいいやがれ。さめざめと泣いてみせろ。


「――OKだった」


 吉崎は女子大生と肩に手を回したスマホの画像を俺にみせてくる。


 世界は崩壊した。


 世の中が俺を裏切ったのだ。


 俺の知っている吉崎の法則と違う事がこの世界に起きた。昔、ニュートリノが光の速度を超えた観測結果が得られたとかいうニュースがあったが、そんなの吉崎に彼女ができる異常に比べたら、とるにたらん。


 ショックだった。


 ああ、世界が真っ暗だ。

 この世には希望なんてないんだ。


「ふっわっはっははは! 孝也テメーは散々な事を俺にいってきてくれたけどよ。結果はこうだよ。分かったか? 俺とテメーの違いが! 所詮俺とテメーとでは男としての格が違うんだよ! 格が! その辺しっかり理解しとけ!」


 高笑いを続ける吉崎。

 死にたくなってくる俺。


「で、だ」


 にやりと嫌な笑い方をする。


「予定通り罰ゲームを執り行わせてもらうぜ? ちゃんと鉄オタの緒方から、カメラも借りてきてるし、くくくっ、いい記念になるわ」

「おおっ、吉崎マジ彼女できたんだ、やったね。罰ゲームは樋口かー、残念だね」


 耳ざとく聞きつけた横沢が話に入ってきて、俺をみて失笑する。

 この野郎、横沢、お前のうっとおしいその長髪を丸刈りにしてやろうか。

 けど、敗者にできる抵抗はないのだ。俺はただいきどおるだけ。


「そういや横沢は字がきれいだったな。ちょっと書けよ『一生一人、俺一人、自分だけを愛します』ってよ!」

「OK、OK、任せて」


 俺は高笑いする二人のリア充どもに殺意を覚えつつ、諦念と共に覚悟していった。

 負けは負けだ。仕方ない……ちくしょう。


「うるさいわね」


 その声は決して大きくはないが、とてもよく耳に響いた。

 吉崎と横沢のバカなノリもなりを潜め、クラス中の注目がただ一点、その声の主、神谷に注がれていた。


「馬鹿みたいに騒いで、本当に馬鹿ね、あんたたち」


 そっと椅子から立ち上がり、神谷はこちらへ近づいてくる。

 長いきめ細かな栗色の髪をそっと片手で流し、キラキラと淡い太陽の光を反射させる。眼光にはいつも通り不機嫌だがとても美しい色を宿す。けど怒っている様子ではない。


「彼女ができたとかなんとか、騒いでるようだけど、くだらないわね」


 神谷が自らすすんで、話しかけてきたところをはじめて見た。どうやら俺たちの話を聞いていたようだけど、ありえない事態に話しかけられた俺たちはとまどってしまってなにも話せない。


 そんな俺たちを順に見て、すっと視線を動かす。

 最後に切れ長のきれいな、しかし不遜ふそんな瞳が俺を見る。


「罰ゲームを受けさせようとか、おかしな事をいうわね。だってこの男」


 そういって、神谷は俺を指差す。





「私と付き合ってるんだもの」







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