第23話「話し合い①後をつけてみた」
翌日の学校、昼休み開始のチャイムが鳴る。
授業が終わり、神谷が教室を出て行ったのと同時に俺はその後を気づかれないようについていく。
神谷は疲れ気味だった。
だが、その美貌はかげることなく、少しの疲労は淡い陰影を生み、どこか少し儚くも見えて、同じクラスの連中が盗み見て、ため息をもらしてしまうくらいには美しかった。
それは男女問わずだ。俺のクラスはリア充の巣窟だから、神谷という爆弾に手を出そうとはしないが、毎日見ているクラスメイトでさえ、あれだけ強く神谷から拒否されてしまっても、やはりその存在に目がいってしまう。
ちづる先輩の話ではないけど、一挙一動を常に見られてしまう存在なのだ、神谷は。
生まれ持った才能。
俺は培った才能を過去に持っていた男だが、野球と美しさじゃ違う分野だけど、そういう才能を持っている奴に、正直、嫉妬してしまう。
今の俺にはまぶしすぎるのだ。目に痛い。
大変なんだろうなとは思う。
けど、もっと大事にしていいはずな気がしなくはない。
きっと持たざるものの勝手な意見なんだろうけど……。
校舎から抜け出し、正門の裏手、非常階段から少し離れたところにある茂みに一人、ハンカチを敷き、神谷は腰を降ろした。日陰になっており、薄暗くここに食事にくる奴はいない。
大抵、外で食べる奴は正門からすぐのモニュメントがある日当たりもいいところで、一般生徒は昼食をとっている。まあ、それもこの季節になると疎らだが。
俺は覚悟を決め、隠れていた校舎の影から神谷のもとへと向かう。
神谷はすぐに俺の存在を認めたようで、とりだそうとしたランチボックスを直し、ハンカチを回収して、そそくさと立ち去ろうとする。
「おいおいっ、待てって。当然のようにどっかいこうとするなよ」
舌打ちして、神谷はとてもきれいに整った横顔をこちらに見せる。
「なにか用? ストーカー」
「……なんでストーカーなんだよ」
「私がここでご飯食べているなんて、誰も知らないでしょう。いつもここには誰も来ないし。あんたつけてきたんでしょ? 話しかけてくるタイミングもご飯を食べる前で、タイミングがよすぎるし……マジきもいわ」
はき捨てるようにいった神谷の顔はまさに汚物を見るかのようだった。
実際つけてきたのは当たっているだけに何も文句はいえない。そこまでいわれたら傷つきはするけどな……。
「あれなの? 学級委員様は私がご飯食べる場所にも注文が? なら心配ないわよ。あんたがここに来たんだから、二度とここでご飯は食べないわ。あんたと会った記憶が蘇るなんて、ご飯がまずくなるものね。分かった? じゃあ、さようなら」
「おいおいっ、だから待てって。話があるんだよ聞けって」
「私はないわ。だいちあんたの話は私にとっては無駄よ。どうでもいいわ。あんまりしつこいとえぐるわよ? どこかへいってくれない」
拳を握りこむ神谷の姿をみて、条件反射で身がすくむ。
だが、ここで引いてしまっては意味がない。まだスタートラインにも立てていないのだから。
俺は神谷の言葉に逆らうように無言で神谷の前へと近づく。
「――どこかへいけっていってるでしょう?」
当然、神谷の怒りを買い、神谷の体重の乗った左ボディーが突き刺さる。いつもなら思わずうずくまってしまうその攻撃を何とか耐える。
そして俺はゆっくりと神谷に対して頭を下げる。
「その……すまなかった」
「…………はっ?」
「なにをしても無駄とか、さすがにないな。言い過ぎた、ごめん」
神谷が今あてつけのように俺に無駄という言葉を使った以上、よほど俺は神谷を傷つけるような事をいってしまったのだ。相手の非が俺と比べて十……いや、例え百あれ、まずは謝りたい。
神谷は眉を寄せ視線を下にして舌打ちしたが、どこかに行く気配はない。
どうやら少しは聞いてくれる態度を示してくれたようだ、すごい横柄だが。
俺は話を進めるにあたり、緊張をごまかすように唇をなめた。
「実はKKMの事で話があるんだ」
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