第12話「KKMってなに?①悪友の痛い行動」
「おいっ、孝也」
喧嘩の仲裁に入り、疲れ果てた俺に吉崎が話しかけてきた。
昼休み一緒に食事をしていたカップルがすごくつまらない事をきっかけに、激しい言い合いとなった。日頃のうっぷんが何かとあるのかもしれないけど、教室で止めて欲しいところだ。また、『どうにかしてくれ、学級委員』というクラスメイトの視線も勘弁して欲しかった。
俺はため息をつき、カップルの間に入った。何でもめているのか、教室で目立ってはまずいのではないかと、諭そうとしたのだが、それが二人の逆鱗に触れたらしく、何故か俺が罵られた。その事が謀らずも幸をなしたのか、二人は俺を罵り合う事に息が合い、最後は何故か感涙に咽びあい二人抱きしめあって仲直りした。理解不能だった。
そんな風にしてくたびれた俺は机を枕のようにしてこのまま仮眠したい気分なのに、何を話しかけてきてるんだろうな、こいつは。
「おいっ、コラッ、寝ようとするんじゃあねぇ」
「うるさいな。なんだよ、俺は眠いんだよ。疲れてるんだよ。休みたいんだよ。体も心も疲弊してるんだよ。休息が必要なんだよ」
「なにが休息が必要なんだ、だよ。テメーなんか生徒会の風紀委員長と仲がいいみたいじゃねぇか」
「……悪くはないけど、それがどうした?」
俺は体を起こし、机に置いてあるはちみつ柚子茶に口をつける。
「お前、女に興味なさそうな言い方だったのに、しっかり狙い玉もってるじゃねえか! まさか既に付き合っているわけじゃねーだろうな!」
「付き合ってないし! 声がでかいわ!」
クラスメイト何人かの視線を集める。そんな事を大声でいうんじゃない!
「えっ、なに樋口って、彼女できたの?」
吉崎の馬鹿のせいで反応しなくていいのに横沢が話しかけてくる。
「こんにちは、裏切り者」
「今日は来てやがったな、裏切り者」
「なんだよ、二人でそれは」
緩い表情で、肩までの長い髪に手をいれて頭をかく横沢。高校で軽音楽部に入り、ベースをやりだすようになってから伸ばし始めたらしい。演奏より見た目から入るミーハーな男だ。
「うるさい。クリスマス集まろうといってた奴が一抜けしやがって」
俺は横沢に毒づく。
「そりゃー、仕方ないじゃん。俺、愛に目覚めちゃったんだからさ。いやー、彼女っていいもんだよ。昨日も学校休んでデートしてさ、一日くっついて離れないの。一人の時はベタベタしているカップルってうっとおしいなーって思ってたけど、これが実際やってみると超いくってさ」
「吉崎、一昨日の一発じゃ殴られ足りなかったみたいだから、もう一発やっといて」
「おお、了解」
吉崎が腕をまくり、ヘラヘラとしまりのない顔でのろけまくる横沢に詰め寄る。
お前が今、まさにうっとうしい人だよ、横沢。本当、吉崎に殴られて、他人の気持ちを知れ、馬鹿者め。
「やだなー。暴力反対だよ。彼女いないからって見苦しいっしょ」
「……孝也、一発でいいのかよ?」
「好きなだけやれ、俺が許す」
指の骨を鳴らしながら、吉崎は拳をふるう準備に入るが、横沢はマイペースに話を続けようとする。その余裕がなにかと腹立たしいわ。
「あれ、でも樋口彼女できたんじゃないの?」
「できてないよ、悪かったな」
「そうだ、そうだ。勝負はまだ続行中なんだからよ」
「俺に彼女ができるまではな」
「……その言い方はまるで俺に彼女ができねーみたいな、言い方じゃねーか、ああっ?」
「俺はなにも間違った事はいってないけどな」
横沢に向けていた敵意を俺へと向け、吉崎は俺とにらみ合う。
「勝負ってなにさ?」
いがみ合っている俺たちを気にせず、のほほんとした表情で横沢は聞いてくる。
「……どっちが先に彼女ができるかだよ」
彼女がいる奴にいうには屈辱的な勝負事だな、これは。
「……ああ」
哀れそうにうなずいて見てるんじゃない横沢。お前だってついこの前まで、こちら側の住人だったのに。
「それでどんな感じなの?」
「俺は仕込み中だぜ。孝也は風紀委員長狙いみたいだぜ」
「……好きにいってろよ」
ちづる先輩と話していると楽しいし、かわいい人だとは思う。だからといて別に下心があって仲良くしているわけではない。吉崎にそんな事をいっても無駄なんだろうけど。
「煮え切らないところをみるとまだまだ大丈夫そうだな。やはりこの勝負俺に分があるみてーだな」
「なんの根拠だよ」
何故か腕を組み、うんうんと自信ありげに頷いている吉崎が謎だ。
いぶかしむ俺と横沢の視線をよそに、吉崎はおもむろにポケットからメモを取り出し、俺たちに見えるように掲げた。
そこには五名の女子の名前と不規則な数字が並んでいた。
「これは?」
「今、この学校に彼氏がいない女子たちだ。んで、文化祭のミスコンでの投票順位が横に書いてあるんだよ。もちろん上位者しかリストアップしてねぇ」
ちなみに神谷は転校時期の関係で、結局、ミスコン投票にはノミネートされなかった。もし、投票されていたら、今のように本性が知れ渡る前だったから、ぶっちぎりの一位だったろうな。恐ろしい事だ。
「それで?」
「この中にいる女子たちは当然クリスマスに向けて焦っているはずだ。そこでこのイケメンなメンズであるこの俺様が、声をかけていったら、どうなると思うよ?」
メン、メンズと二回も使うんじゃない、この馬鹿は。
「無理ですって拒否られるんじゃない?」
「不審者と思われて、警察に通報されるだろうな」
無駄に前髪をかき上げて、かっこをつけたかっこ悪い吉崎に、横沢と俺が思ったことを口々にする。
「なにが無理なんだよ! いけるだろうが! しかも警察って俺は一体その娘らに何すんだよ!」
吉崎はそんな冷静な判断をくだした俺たちに喚き立ててくる。ああ、うるさいな、こいつは。
「大体、お前らと違って俺は顔は悪くねーんだから、やる気だしたら一発だ、つうの」
吉崎は彫りの深い顔立ちをしており、それなりに整った容姿をしている。体格も鍛えているだけあって引き締まっており、身長も一八○センチと高い。確かに見た目だけを考えれば、いいたくはないが、悪くはないのだろう。
しかし、それは関係ないのだ。
「まあ、問題は容姿じゃないしな」
「だよねー。容姿じゃないし」
そんな俺たちの真っ当な発言に対して、吉崎は拳を震わせる。
「てめーら見てろよ! 俺の情報網を駆使して、この女子らの趣味、嗜好、過去、夢あらゆる事をくまなく調べて、今一番いってほしい言葉をかけてやるわ! そして見事に彼女をゲットしてやっからな!」
吉崎が公然と犯罪の匂いがすることを宣言した。お前が調べる過程が怖くて聞けないな。いやはや、ストーカーと間違われないようにな。
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