第5話 腹黒いと計算高いの違いはよくわからない。
『ここには宝物が眠っている』ムースカの言葉は半信半疑だが他に当てがない。
仕方なく村の若い衆と岩盤を掘り進めると異様に硬い地盤にあたった。この硬さ!鉄鉱石以上に貴重なオリハルコンとかでちゃったかも。
「ムースカこの硬いのが、宝物か?」
「いや違うぞ、それは只の硬い地盤だ。宝はその先にある」
「その先か、これ以上は道具を変えないと無理だな」
シロウ達の持つツルハシはボロボロだ。地盤の硬さに負けている。
「ムースカ、お前掘れるか?若しくは道具持ってないか」
「私は狸型ロボットではないぞ。だが安心しろ。この地盤を掘り進むための道具の素材は向こうの地盤から取れる。そして、その地盤を掘るための素材はあっちだ。さらにその素材を取るための素材である鉄鉱石はあそこから取れるのだ」
ムースカはドヤ顔で、反対側にある丘を指差した。
◇《現実》
「近くに村あったか?」
真司は近くに村が出来てたらしいが、志郎の村の周囲は見渡す限りの草原と丘しかない。
このゲームはGPSを反映して、近くでゲームしている人同士をゲーム内でも近くの村に配置する。
クラスの女子生徒は、真司の村の近くに配置される事を祈っているだろう。毎夜、真司の家から近い家に集まってゲームをしているとかしていないとか。
「無いな、真司はあるのか?」
「昨日、ログアウト直前に村が現れた。最初は絶対に無かったからな。ある程度進んだら配置されるのかもな。今日その村に行く予定だから、シロウも進展あったら教えろよな」
進展か、、昨日は『あっちの丘から掘れば良いのに』的な事をサラッと言ったムースカに頭突きして、ムースカの眼ビームで鉄鉱石を採掘して終わったからな、名産までは進んだ。
因みに硬くて諦めた方はムースカの眼ビームでもビクともしなかった。
◇《ゲーム》
鉄鉱石はあった、よく解らんが村長が鉄鉱石だと言うならそうなんだろう。
村の中央に積み上げられた鉄鉱石・・
製鉄所はおろか鍛冶屋もない我が村・・
『これ食べられるの?』子供が鉄鉱石を見て何か言っている。
「この村の名産は鉄鉱石ですか」
積み上げられた鉄鉱石を見て、呆然としているといつの間にか横に立っていた男が声をかけてきた。
「どちら様ですか?」
「私はルパーノです。ルビントゥキーからこの村に立ち寄れと命令を受けています」
ゲームらしく都合が良い。こういうテンポの良さは流石だ。
「では、この鉄鉱石を買い取って頂けないでしょうか?」
「良いですよ。では120万ルカで如何でしょうか?」
ルパーノの言う金額が果たして妥当なものなのか? 円=ルカだから120万円。労力的にはムースカへの頭突きと運んだだけだから、良いと言えば良いが、鉄鉱石は無限に出て来るわけでは無いからな。
しかもお金は今のところ使い道がない。
「金銭でなく、物々交換は出来るか」
「売った後に、ご希望の商品を買うということではなく、物々交換ですか、我々の利を少し減らせと言う事ですね」
そこまでは言っていないのに、勝手な推測で『やりますな』とこちらを見てくる。商人は商品売買で買う時・売る時の二回の利を得る。安く買い、高く売るそれが商人だ。
物々交換とは等価交換だから、シロウの鉄鉱石を安く買い叩くのではなく、同じ価値の物と交換しろと受け取った様だ。無論、そんな事までは考えていない。
「そうしてくれるとありがたいが、それよりもお金の使い道がまだ無いんだ」
「そうですか、考えすぎる癖が出てしまいました。そう言う事でしたら、お金は直ぐに必要になりますよ。村に酒家はありますか?」
「お酒を出す所はまだない。お酒も無い」
「では酒を物々交換で20万ルカ分、残りを100万ルカのお金で如何でしょうか?」
酒か・・。シロウはまだ飲んだ事もないから個人的に興味はない。しかし、よくある戦略ゲームは酒家でガチャ引けたりするから、酒家を作れば武将が来るのかも知れない。そしてお金で採用する。そう言う事だろう。
ルビントゥキーが連れてきたルパーノだから、こいつは腹黒いと決め付けているが、アドバイス役がムースカのこのゲームは辛すぎる。この取引が損であったとしても武将が得られるのであれば良い。俺にも関平が必要だ。
「それでお願いします」
シロウはルパーノに言った。
◇《現実》
「瑠璃、瑠璃は酒家作った?」
「酒家?まだだよ。関さんは後で作るって言ってた気がする。酒家はたまに武将が来るから、スカウト出来るらしいよ」
瑠璃の言葉で、判断の正しさに満足する。
きたコレッ。軍師までは望まない、まともな人来い!とほくそ笑んでいると、教室に皐月と真司が入ってきた。今日もお仲が良くて結構な事だ。
教室に入った皐月はシロウに向かってズンズン進んでくる。
近づく毎にあら不思議、表情も険しいものに・・
「シロウ、待っててって言ったよね。昨日も今日も何で先に行くのよ」
ムッとした顔になった皐月が声をかけてきた。
「真司が一緒にいるからいいだろっ」
「あれっ、シロウひょっとしてヤキモチ焼いてる?」
ヤキモチを期待しているのか?皐月の表情は少し明るくなった気がする。こういう要らぬ期待が俺を殺す。皐月から目を離し横に来た真司に声をかける。
「・・聞きたいことがある」
皐月とキスはしたのか? もしかしてその先もしたのか? やっぱり気持ちいいのか? あと出来れば俺に誰か紹介してくれないか?
聞きたい事は沢山ある。
「ギャラリーが多いからな、昼休みに話そうぜ」
真司はいつでも真司だ。爽やかにそう答えた
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