第2幕 『くるみ割り人形』のヒロインの場合 ⑪

 その日の夕方―


コンコン


クララの部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「クララ、私だよ。フリッツだけど中へ入れて貰ってもいいかい?」


丁度その時、クララはメイド達によって美しく着飾り終わったばかりだった。


「はい、どうぞフリッツ王太子様。」


クララが答えるとドアが開けられ、そこには騎士の姿をしたフリッツが立っていた。そして美しく着飾ったクララに近付くとすぐ側で見つめ、笑みを浮かべた。


「ああ、何と美しいのだろう。クララ・・・今夜はずっと私の側から離れてはいけないよ?」


そしてクララを強く抱きしめ、メイド達がいるにも関わらず唇を重ねてきた。


「ま・・待って下さい・・!」


クララは恥ずかしくて、無理に顔を背けるとフリッツを押した。


「何故駄目なんだい?クララ。」


フリッツは首を傾げるが、クララは顔を真っ赤に染めると言った。


「ひ、人の目がありますから・・・!」


すると再びフリッツは嬉しそうにクララを抱きしめると耳元でクララにだけ聞こえるようにささやいた。


「それなら今夜2人きりになったら思い切りクララの事を愛しても・・・いいんだね?」


その言葉を聞いたクララはより一段と頬が熱くなった。


「ハハハ・・真っ赤になって・・クララは本当に可愛いね。」


笑いながら頭を撫でるフリッツ王太子にクララは言った。


「フリッツ王太子様・・私をからかってたのですね?」


いつの間にかメイド達は姿を消していた。2人の邪魔をしてはいけないとの配慮だったのだろうが、クララは2人きりで部屋にいるのが恥ずかしくてならなかった。

すると突如としてフリッツが言った。


「おや・・?クララ。そこにある人形はどうしたのかい?」


机の上に置かれたくるみ割り人形に気付いたフリッツが尋ねてきた。


「ええ、あれはくるみ割り人形です。私のおじさまがくださりました。」


「そうか・・。実は今夜のパーティーの料理でクルミやナッツも料理のメニューに出されるのだが・・・もしクララさえよければ、そのくるみ割り人形をナッツのテーブルの上に置かせて貰ってもいいかな?愛らしい人形があればテーブルもにぎやかになると思うのだが・・・どうだろうか?」


「ええ。構いませんよ。」


クララはくるみ割り人形を手に持つと、仮面をつけた。


「うん。クララ・・・良く似合っている。」


そしてフリッツは腕を差し出すと言った。


「私の姫・・・ではパーティー会場へ参りましょうか?」


「はい、フリッツ王太子様。」


クララは王子の腕に自分の腕をからませると、王広間へと向かった。


しかし、クララはまだ知らない。


今夜のパーティーに兄のフリッツがやって来ると言う事を―。

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