第2幕 『くるみ割り人形』のヒロインの場合 ⑩
「クララ、今夜のクリスマスパーティーは少し主旨が変わっているんだよ。」
城の薄っすらと雪が積もった庭を2人で歩きながらフリッツ王太子は言った。
「主旨が変わっている・・?それは一体どういう事なのでしょうか?」
「それはね、仮装してこのパーテーに参加するって事だよ。」
「まあ・・・仮装ですか?」
「ああ、ちなみにこのパーティーは普段は参加しない城の兵士達も仮装して出席するんだ。何せクリスマスは世界中で祝う日だからね。何処の国でもクリスマスだけは決して戦争をしかけてこない。1年で世界中が一番平和な2日間なんだよ。」
「そうだったんですか・・・。クリスマスって・・本当に幸せな日なんですね・・・。」
薄っすらと積った美し庭を白い息を吐きながら眺めているクララをフリッツ王太子はじっと見つめている。
(本当になんて美しい女性なのだろう・・。)
そこでフリッツは尋ねた。
「クララ・・・貴女には好きな男性はいるのですか?」
するとクララの顔が曇った。
「いいえ・・・今迄男性の方とは殆どお付き合いしたことが無いのです。少し仲が良くなっても、いつの間にか皆いなくなって・・・。それでお兄さまに言われたのです。私に近付く男性を追い払って来たと・・・。」
「な・・何て酷い事を・・・。」
フリッツはクララの兄の執念深さを心底恐ろしいと感じた。
「ですが・・・。」
フリッツはクララの頬にそっと触れると言った。
「そのお陰で私はクララ・・・貴女に出会えました。しかも・・嬉しい事に貴女には恋人がいない・・・。」
「フリッツ王太子様・・・。」
クララはじっと見つめる王子の瞳に魅入られ、身動きが取れなくなっていた。そして気付けばクララは王子の手で上を向かされている。
「クララ・・・目を閉じて・・・。」
言われるまま、クララは目を閉じるとそっと王子は唇を重ねてきた。それはクララにとって生まれて初めての経験だった。
その口付けはとても甘美的で酔いしれたクララは膝から力が抜けていきそうになった。すると王子はクララを強く抱きしめ、やがて唇を離すと熱の籠った目でクララを見つめながら言った。
「私は・・・貴女を一目見た時から好きになっていました。クララ・・今夜のクリスマスパーティーが終わったら・・・私は貴女を自分の物にしたい・・・。」
「え・・?そ、それは・・・。」
クララは顔を真っ赤にしながら尋ねた。
「そう、私と結婚して欲しいんだ。」
そしてフリッツはクララの返事を待たずに再び唇を重ねた。今度は恋人同士の深い口付けを―。
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