第2幕 『くるみ割り人形』のヒロインの場合 ⑥
クララを乗せた馬車は町を抜け、丘を越え、やがて大きな城が見えてきた。
「え・・・?お城・・・?」
クララは馬車の窓から顔を覗かせ、美しい城に見惚れてしまった。普通の貴族令嬢であれば、社交界で城に呼ばれた事はあるかもしれないが、クララの場合はその存在を隠すように育てられて来た。当然お城を見るのも初めてだ。
「どうしましたか?お嬢さん。お城を見るのは初めてですか?」
そんな様子に気付いたのか、青年が声を掛けてきた。
「は、はい。初めて見ます。あの・・・・貴方はもしかするとあのお城に勤める騎士様ですか?」
クララの質問に青年は意味深に笑みを浮かべると言った。
「さあ・・・どうでしょう?時機に分かると思いますよ?」
「はい・・・。」
(答えたくないのかしら・・・。でも私はこれからお世話になる身だから今は何も聞かない事にしましょう。)
やがて馬車が城門に到着すると、ゆっくりドアは開かれた。馬はさらに城門の中へ進むとそこは見事な庭園が広がり、その奥には美しい城がそびえたっていた。
「まあ・・・なんて美しいお城なのでしょう・・・!」
クララは目をキラキラと輝かせた。そしてそんな様子のクララを青年は黙って見つめていた。
やがて馬車が城の扉の前で止まると、青年は馬車を降りた。
「お嬢さんはまだ馬車の中で待っていて下さい。直に別の者がやって来るので。」
「はい、分かりました。」
クララは素直に返事をすると、青年は笑みを浮かべて扉を開けて、中へと入って行った。
青年が扉の奥へ消えて5分程経過した時、1人の初老の男性がやって来た。
「お待たせ致しました。お迎えに参りした。さあ、どうぞこちらへ。」
クララは言われた通り、初老の男性のエスコートを受けながら馬車を降り、中へと案内された。
白の中はとても美しく広々として、まるで夢の世界の様だった。
「お客様を丁寧にもてなすように申し付けられました。」
そして男性の案内で広い廊下を歩き、客室へと案内された。
「どうぞこちらの部屋をお使いください。」
通された部屋はとても可愛らしい客室で、カーテンからベッドカバー、そして絨毯に至るまでが雪の結晶や金平糖の柄が描かれている。
「まあ・・・なんて可愛らしい部屋・・・。」
そしてクララは窓の外をみると、すっかり夜が明けて眩しい太陽の日が差していた。
すると初老の男性が言った。
「お客様を食卓にご案内するようにとの事です。」
「はい!」
(どうしよう・・・こんなによくして頂いて・・いいのかしら・・・。)
戸惑いながらも男性に食卓へ連れて来られたクララは既に先客がいる事に気が付いた。
青年は立ち上がると声を掛けてきた。
「お待ちしていましたよ。お嬢さん。」
すると初老の男性がクララに言った。
「あちらにおられる方がこの国の次期国王になられるお方ののフリッツ王太子です。」
「え・・・?!」
クララは信じられない思いで王太子を見つめた—。
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