第2幕 『くるみ割り人形』のヒロインの場合 ⑤
クララを乗せた馬車はドロッセルマイヤーの自宅に着いた。
「どうもありがとうございました。」
クララはお辞儀をし、馬車を降りると何故か青年迄一緒に降りて来た。
「あの・・どうかされましたか?」
クララの問いに青年は答えた。
「いえ・・。何だかこの屋敷に人の気配を感じないので・・。」
「え?!まさか・・・・。」
そこでクララはドアを強く叩いた。
「おじ様っ!ドロッセルマイヤーおじ様っ!」
しかし何の反応も無い。その時青年は何かに気付くとクララに声を掛けた。
「お嬢さん、あの郵便ポストを見てごらんなさい。」
「え・・・?」
クララは郵便ポストに近付くと張り紙に気が付いた。
『暫く旅に出るので、新聞は持って来ないで下さい。』
「そ、そんな・・・・。」
クララは思わずへたり込みそうになった。
(どうしよう・・・どうすればいいの?屋敷に戻ればお兄様がいる。このままでは私はお兄様に・・・っ!)
クララの脳裏に先ほどフリッツにベッドの上に組み伏せられた時の恐怖が蘇ってきて、身体が震えて来た。
「ど、どうしよう・・・。私は・・・何処へ行けばいいの・・?」
青ざめた顔で震えるクララを青年は黙って見ていたが、声を掛けてきた。
「お嬢さん、何があったのかは分かりませんが・・・外は冷えます。取りあえず馬車に入りませんか?」
青年に促され、クララは力なく返事をした。
「はい・・・。」
馬車に入ると青年は質問をしてきた。
「それで・・貴女は今行き場が無いのですか?家はどちらなのです?見た所身なりも良さそうですし・・・ひょっとすると貴族令嬢なのでは?」
「は、はい・・確かに私は貴族ですが・・・で、でも・・もう邸宅には帰れないのです。」
「何故ですか?」
「こんな事を初対面の男性に話していいのか・・・分かりませんが・・・実は私には血の繋がらない2歳年上の兄がおります。その兄は普段は遠方の大学に通い、家にはいないのですが・・今はクリスマス休暇の為に帰って来ているんです。そして・・あ、兄が・・私に・・・来年年明けと共に・・私と結婚すると・・・。」
「何ですって?」
青年がピクリと反応する。
「私は今迄兄を1人の異性として見た事なんかありませんっ!そして拒絶したら・・襲われそうになって・・・。」
クララは自分の両肩を抱きしめると振るえた。
「そこを母が駆けつけてくれて助かったのですが・・・もうここに居ては危ないと言われ・・こちらの家を訪ねるように言われたのです。でもまさか・・・留守だなんて・・・・。」
クララは涙をにじませた。すると青年が言った。
「お嬢さん・・それなら・・・私の所へ来ませんか?貴女1人連れて来るくらいどうって事はありませんから。」
勿論、クララはその提案を喜んで受け入れた—。
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